ちょっとしたテクニック
バリューストリームマッピングを実施する際、こだわりすぎや暗黙知によって停滞することが間々あります。そんな時は、下記の点を押さえておくと良いでしょう。
プロセスの詳細よりも、ボトルネックを見つけるために全体像を把握
精密に描くことにとらわれがちなので、全体像を明らかにしましょう。カイゼンが進むことでボトルネックは移ります。この地図に落書きするように濃くアップデートしていきましょう。
マップ自体よりも「マップ作りの活動」を大事に
このプラクティス名は、マップではなく「マッピング」です。全員で作成する活動がコミュニケーションを生み出しチームビルディングにもつながります。アナログで描くことでチームの不明確なことが露呈されます。表出に時間がかかってしまうグチャッとしたところがリスクが高いことを表していて、チームの関心事に変化させることができます。
プロセス名に"確認"や"チェック"という単語が並んでいたら、手戻りが発生しているはず
確認やチェックという名前のプロセスは本当に意味のある仕事かどうか考える機会にしましょう。必要のないムダな承認やスタンプラリーが発生中かもしれません。削減できればリードタイムは一気に削減できます。
定量的な数字削減にプレッシャーを感じるのであれば、ストレスの多いプロセスを楽にさせる自動化などのカイゼンを
はじめは小さい成功事例を作ることを大事にしましょう。持続可能なペースでカイゼンを実施し続けた方が、長期的な効果は高くなります。
エピローグ
マッピングを終えて、意外なことが分かった。ボトルネックは境川さんだったのだ。
新しい方式の選定と設計と、プロダクトバックログのリファインメントが進まないからやることを増やせるように技術的負債の整理、それに加えてすべてのコードに目を通すこともしている。境川さんのレビューが通らなければ、機能がプロダクション環境にデプロイされることはない。可視化したフローの至るところで境川さんの名前が挙がった。
そのところどころでは、境川さんの尋常じゃない生産性で乗り切っていたものの、いかんせん一人の身なので、境川さん待ちがちょっとずつちょっとずつ至るところで起きてしまっていた。その結果、やれることが少ない私が手持ち無沙汰になったり、デプロイできる機能の量が減ってしまったりしたのだ。
全員で、境川さんの顔を覗き込んだ。
「……そのうち、(ボトルネックは)解消するでしょ……」
境川さんの平然としたつぶやきが言い終わらないうちに、私は叫ぶように言った。
「いやいやいや! これって鎌倉さんがプロダクトオーナーとしてもっと動いたら良い話ですよね!」
藤沢さん、御涼さん、片瀬さんが凍りついているのが雰囲気で分かる。言われた鎌倉さんは、私の方をゆっくりと見た。ゴゴゴゴゴッという音が聞こえたのは私だけだろうか。
「和田塚さん、俺この先もしばらくは別件で時間が取られるんだ。その間、チームで回してくれるか」
今度はひゅうという拍子が抜ける音を聞いた気がする。全く想定外なことに、鎌倉さんはちょっと笑顔にすらなっていた。……それにしても、別件って。プロダクトオーナーがプロダクトに向き合うより優先しなければならないことって何なのだろう。
私はいまだ釈然としない気持ちを抱えていたけども、ここまで来たら鎌倉さんの申し出に答えるしかなかった。
「もちろん、チームで回していきますよ!」
鎌倉さんは見たこともない穏やかな顔で「任せた」とまた短く答えた。このあとしばらくして、鎌倉さんの言う「別件」にチームとして向き合わざるを得なくなり、そして、かつてない窮地にチームが立たされることになろうとは、この時は全く知る由もなかった。
今回の原則の解説:一個流し
今回のテーマ「バリューストリームマッピング」の背景にある原則は、「一個流し」です。以下の3点を押さえておきましょう。
- 見える化することで不都合な真実も露呈される。手戻りやムダが多く、滞留時間の長いプロセスをカイゼンする。つまり、川の水かさを下げて、流れを妨害している箇所をカイゼンし、価値という水の流れをスムーズにさせる
- 滞留在庫に価値はない。最終顧客にたどり着いて初めて価値が生まれる。各々のメンバーがフル活動して稼働率が150%になることに顧客の関心はない。メンバーの稼働率よりも、価値が早く届くことの方が顧客は喜ぶはずだ
- 自身の作業だけではなく、前プロセスと後プロセスを把握し、前後の担当者がどうすれば楽になるかといった視点で、全体のボトルネックを解消する
本連載を深く理解するには、書籍『カイゼン・ジャーニー』の併読がオススメ!
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- 開催日時:2019年10月11日(金)10:00~18:00
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- 場所:株式会社翔泳社 セミナールーム
- 詳細・申し込み:https://event.shoeisha.jp/cza/20191011