AIがクリエイティブやデザインの分野にも進出する未来はもうすでにやってきている。そしてそれは、デザイナーの役割を大きく変えることにもつながるだろう。AIは、デザイナーをサポートするだけでなく、キャッチボールを繰り返しながら最終形を生み出してゆく――。そう考えると良いデザイナーとは、優れたスケッチを書く能力ではなく、AIがより洗練されたデザインを生み出せるような条件を与えることができる人、ということになるかもしれない。
AIのデザイン分野における活用は発展途上であるが、そのような未来がきた時にデザイナーという職能はどう変わっていくのか。それがこのプロジェクトのテーマでもあり、参加した現役のカーデザイナーが強く興味を持った部分でもあった。
結果、このプロジェクトではデザイナーの着想を洗練させ、構造的にも担保された自動操船ヨットのデザインを行うことができた。
今回のように、さまざまなプロフェッショナルやクリエイターでもあるコミュニティのメンバーが組織を横断してワーキンググループを結成し、フレキシブルにプロジェクトに参加する――。そんな関わりかたは、新型コロナウイルスの感染拡大で働きかたや組織に所属することそのものの価値が目まぐるしく変わる今こそ、いっそう増えていくだろう。
香港×デモ×アート
最後にもうひとつ、企業との事例ではないが、コミュニティ・ドリブンで行ったプロジェクト「私たちは、マジで____が大好きなんだぜ ! 」展を紹介したい。
2020年10月にアーティストコミュニティと共同で行ったこの展示で紹介されたのは、民主化デモに揺れる香港とデモから生まれたデザイン。デモや事件の時系列と比較しながら、デモを支援する香港のクリエイティブが変わっていく様子を追った。なかでも、香港国家維持法施行の前後で表現を奪われた香港の人々と、それでもなおクリエイティブの力で表現をやめないアーティストの作品を紹介している。
このプロジェクトではFabCafe周辺のアートコミュニティのメンバーが企画をし、香港在住メンバーの力や、名前を明かすことができない多くのアーティストが参加したことで実現した。
極めて政治色の高い展示だったが、FabCafeの、組織にとらわれないしがらみのなさが実現できた要因のひとつだったように思う。言ってしまえば“ただの渋谷のカフェ”という場所だからこそ、極めてハイコンテキストな企画を実現できた。
まさに多数のコミュニティとそのメンバーが、所属している組織や文脈を超えて活動しているFabCafeのような土壌だからこそ、実現にこぎつけられたプロジェクトだと思っている。
おわりに
コミュニティという存在は曖昧だ。だが、その曖昧さが、逆にフレキシビリティを発揮し、ハイコンテキストな活動を許す。組織を超えたフレキシブルなワークグループを作って、これまでの常識や文脈に縛られないクリエイティブを生み出すことができる――。今後はそんなコミュニティドリブンな動きかたが増えてくるようのではないだろうか。
本連載を読んだ方は、ぜひ自分の行動範囲をひろげ、さまざまなコミュニティに身を投じながら横断的な活動にチャレンジしてほしい。それが新たな仲間との出会いを生み、組織では経験できないようなプロジェクトに参加するチャンスになるはずだ。