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【デブサミ2021】セッションレポート(AD)

貢献意欲の高いエンジニアチームを創る。「組織エンゲージメント」を高めるために現場でできる4つのポイント【デブサミ2021】

【18-D-8】エンジニアチームで実践する組織エンゲージメント活用 ~ 3,000万件のデータから分かったこと ~

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 人材が企業にとって競争優位の源泉と言われる一方で、流動性が加速して人材確保も困難になりつつある。その中で、今いるメンバーの生産性を向上し、離職を回避し、さらには優秀な人材を惹きつける魅力的な組織となるために不可欠な要素として「組織エンゲージメント」という言葉をよく耳にするようになった。これは、メンバーが自発的な貢献意欲を持ち、イキイキと主体的に取り組めている状態を指す。このエンゲージメントが高いと何がよいのか、そして、エンゲージメントを高めるためには現場でどのようにアプローチすればいいのか。組織改善プラットフォーム「wevox(ウィボックス)」などPeople Tech(※)事業を展開している株式会社アトラエ(以下、アトラエ)のwevox Engineer 篠隈仁志氏が、同社の取り組み例を踏まえつつ、エンジニア組織ならではのポイントを含めて解説した。

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※People Tech…“テクノロジーによって人の可能性を広拡げるような事業を創造していく”というアトラエの想いを込めた造語。

株式会社アトラエ wevox Engineer 篠隈仁志氏
株式会社アトラエ wevox Engineer 篠隈仁志氏

日本は「働きがい」で世界最下位!? 人の可能性を拡げる「組織エンゲージメント」が大切なわけ

 「エンゲージメント」は、一般的に「熱意」「活力」「没頭」などという要素で構成されるが、ここでアトラエの言う「エンゲージメント(組織エンゲージメント)」とは「“自律的に”イキイキと働いている状態」のことを指す。周囲から与えられるものではなく、自らの意志で考え、行動できる状態だ。同社ではwevoxなどのサービスを通じて、人の可能性を拡げる「エンゲージメント」を定量化・数値化して測定し、イキイキと働ける組織づくりを支援してきた。

 それはアトラエ自身の組織づくりにも生かされ、2019年には働きがいのある会社で国内1位、アジア圏5位に選出(Great Place to Work Institute Japan 実施(従業員25~99名の部))、wevoxでのエンゲージメントスコアでも上位1%に入る。また年平均離職者数も過去5年で平均5%程度と「社員一人ひとりがイキイキと働くこと」を体現している。さらに売上高および営業利益も好調に推移しており、篠隈氏は「社員のエンゲージメントが企業の生産性にも直結している好例ではないか」と胸を張った。

 それでは日本全体のエンゲージメントはどのような状態なのか。篠隈氏は、139カ国の仕事への熱意度ランキング(GALLUP State of the Global Workplace 2017)で日本がほぼ最下位であることに触れ、「日本は『働きがいがない国』『働くことに対して熱意のない国』という評価を受けている」と嘆いた。

 さらに、アトラエの調査によると新入社員の働きがいも年々減少しているという。篠隈氏は「希望を持って入社した若者が現実を知り、働きがいを失っている傾向なら、社会全体が働きがいを持たなくなっているに等しい。若者が社会に裏切られた状態で、日本がいい国になっていくはずがない」と語る。

 ただし、「働きがい=エンゲージメント」と言えるかというと、職種で差があるようだ。アトラエの調査では、一般に主体性を持ちやすい職種の方がエンゲージメントの値が高く、定型業務が多いと低くなる傾向にあることから、環境に左右され、個人任せの改善が難しいことが伺える。個人のエンゲージメントを高めるには、主体性のある“環境”をいかに作り上げていくかが重要というわけだ。

 そうした中で、IT系企業については比較的エンゲージメントが高い傾向にあるという。クリエイティビティが発揮できること、新しい技術や手法に触れられることなどが要因と思われる。篠隈氏は「私たちIT系企業がエンゲージメントの高いチームをつくっていくことで、働きがいのある社会をつくる先頭に立てる」と力強く語った。

組織エンゲージメントを高めるメリット

 そもそも、なぜエンゲージメントが高いと「何がうれしい」のか。社員が「働く」ということ自体を幸せに感じられる、生産性の向上に因果関係がある、さまつな管理が必要なくなる、離職率が下がる……などさまざまだが「生産性のためだけなら苦労してエンゲージメントを高める必要があるのか」という問いに突き当たることも少なくない。

 篠隈氏は「生産性向上だけなら他の方法も考えられるが、それで本当に長期的に生産性が上がる仕組みになれるか、組織として持続可能か考えてほしい」と問いかけた。そして、エンゲージメントレベルが高いとされるアトラエでの事象を紹介した。

  • 開発プロセスの見直しや改善が現場レベルで勝手に行われる
  • テンションが下がっているメンバーのサポートが勝手に行われる
  • テストの拡充、デバッグなどの気の乗らない系タスクが勝手に行われる
  • お客さまサポート対応のエンジニアが、ポジティブに対応を行っている
  • エンジニア採用のための技術ブランディングの取り組みが勝手に行われる

 いわば社会のため、会社のための行動が、自然に生まれているわけだ。

 それでは、「どうしたらエンゲージメントは高められるのか」。この問いに対し、篠隈氏は“ラーメン店”を例にとって解説した。「世界中の誰もがおいしいと思うラーメンを作りたい」と思っても、人には好みがあり、全てに応じることは難しい。そこで、自分が好きなラーメンを考え、それを好きになってくれる人を絞るしかない。篠隈氏は「会社も同じことではないか」と語る。

 つまり「全ての人のエンゲージメントを高める組織は存在しない」という前提のもと、「事を成す」軸では、経営戦略やビジョンなど組織の方向を指し示し、それを成し遂げる組織や仕組みが必要であり、「人を生かす」軸では、行動規範やプロセスといった「チーム・カルチャー」に加え、「人材」には必要なコンピテンシーを考える。そうして整理しながらエンゲージメントを向上させていくという。しかし、極めて難しく、本来は個人レベルでどうにかできる話ではない。

 個人で考える場合、個人が発揮する「意志」の最大値と「環境」によって引き出される量の2つの尺度で考えるのが妥当だ。意志が強く、それを引き出せる環境は「エンゲージメントが高い」、意志は強いがそれを引き出せない場合は「エンゲージメントが低く離職が多い」、そして意志は弱いが引き出せている環境ならば「低調な成果は継続的に出るが、爆発的な飛躍は難しい」というわけだ。

エンゲージメントを高めるために現場ができること、自己理解からチーム、組織、採用と広げて考えていく

 それでは「エンゲージメント」を高めるために、現場では何をすればいいのだろうか。篠隈氏は4つのポイントから解説した。

(1)個人と向き合う

 「個人と向き合う」ことで最も重要なのは、メンバーの自己理解だ。つまり、「自分がどんなラーメンが好きか」を分かっていなければ、おいしいラーメン屋にたどり着く、ましてや作ることは難しい。自己理解こそが、意思の源泉であることは間違いない。とはいえ、思い込みに陥りやすく、経験した範囲内でしか自己は理解できないという難しさもある。そこで適切な自己理解に必要なのは、何か経験した時に生まれた感情を整理して認識し、より大きな経験・感情を生むためにチャレンジを繰り返すことだ。そのサイクルによって自己理解が深まるという。

 そして同時に深めるべきは相互理解だ。個々人について周囲が理解しなければ、意志を発揮できる環境を“与え合う”ことができない。そこで、例えばアトラエでは自己理解と相互理解を同時に深める場を、高頻度に作っているといい、具体的には1on1はもちろん、飲みニケーションや性格診断なども行われているという。中でもユニークなのは、アトラエオリジナルのwevox values cardというカードゲームだ。これはオンラインで無償提供もされているので、試してみるといいだろう。

(2)組織と向き合う

 組織にとって大切なのは「トップダウンとボトムアップどちらも追いかける」ことだ。「完全トップダウンで現場に余白がないとエンゲージメント向上に必要な自律性は生まれない。しかし同時に現場が自律的に動くためには、余白を含めた方向性をトップダウンで示す必要がある」と篠隈氏は説明する。その後で現場に必要なことは「自チームと向き合うこと」である。現時点で自チームに存在する余白や取れる手段を知り、同時にマネージャーだけでなくメンバーにも理解してもらうことが必須となる。ないものねだりに陥らないよう、いわば会社の「手札」を知る、知らせることが必要だ。

 その上で、会社組織に対して個人やチームの「こうしたい」をいかに拡張し、手札を増やすかが課題となるが、篠隈氏は「これが最も難しい」と評する。一方的な要望・要求だけでは難しいため、まずは会社目線で自分たちが何をすべきか考え理解し、その上で自チームに必要な要素を分解し、上位部門や経営陣とすりあわせて範囲を広げていくことが有効だという。その上で、これまで以上に結果を出すことでできることを広げ、結果としてエンゲージメントを高めている。篠隈氏は「個人やチームなど現場は現場にしか分からないため、会社との折衝はエンゲージメントの高い組織をつくるには不可欠」と評し、「難易度は高いがぜひ取り組んでいただきたい」と語った。

 そして、組織と向き合う中では「採用」も重要なファクターだ。前述したように「どんな人でもエンゲージメントを高められるチーム」というのは存在しない。そして同じ社内とはいえ、人事担当者が正確に自分のチームを理解して採用を進めてくれるとは限らない。そこで、各チームのメンバーが採用に積極的に関わることが必要になる。

 アトラエでも、各チームが採用を自分ごととして捉えられるよう、さまざまな取り組みが実施されているという。例えば、情報は全てオープンになっており、自律的に仕事をするという企業文化を明確化している。その上で採用の職種ごとに各現場の人間がアプローチし、面接等を担当している。「自分のチームに入ったらどうか?」という観点で見るため、ミスマッチが起きにくいというわけだ。

エンゲージメントの高い組織とはぬるま湯組織ではない、人だけでなくコトにも向き合うことが重要

(3)人にもコトにも向き合う

 「エンゲージメントが高い組織」というと「人にやさしくぬるい組織」のように受け取られがちだ。しかし、篠隈氏は「ビジネスを通じて対価を社会から受ける以上、厳しさは必要」と断言する。そこで重要なのが「人にもコトにも向き合うこと」だ。最終的にはコトに向かうことが重要だが、コトに向かうのは人である以上、まずは人に向かいチーム全員がコトに向かえる状況になっているか?を確認・改善し、全員でスタートラインに立つことが重要であるという。

 この時に人だけでなくコトにも必ず向き合うことが重要だ。組織に対する評価は「エンゲージメント」の他、「満足度」もある。与えられれば「満足度」は上がるが、エンゲージメントは上がらない。つまり、満足度が高いだけではチームがぬるま湯状態となり、生産性・業績も上がらない。あくまでスタートラインに全員が立っていることを確認した上でコトに向き合うことで、人が「どう貢献するか」「貢献できるか」を考え、自律的な動きが取れるというわけだ。そうなった時、エンゲージメントは向上し、生産性・業績も上がっていく。

 こうした人とコトに向き合い、アトラエで実施したのは出世・肩書の撤廃だ。一人ひとりがプレーヤーであり、マネージャーとして一緒に働くメンバーと向き合うという考え方に基づく。そして、社員全員が経営者目線で事業や会社と向き合い、行動するようにしており、またそれができる人が評価されるという。

(4)チーム全体で向かい合う

 環境づくりというとどうしても組織や仕組みなどを意識しがちだが、チーム自体がエンゲージメントを高める存在にもなりうる。例えば誰か一人がエンゲージメントを高め始めると、その人の存在そのものがエンゲージメントの高まる理由になり、その人のいるチームのためにプラスの行動が取れるようになり、最後には全員がチームのエンゲージメントを高める存在になりうる。一人目が重要だけに、エンゲージメントの高い組織づくりは「最初はしんどい」と篠隈氏は語るが、「諦めなければ必ず仲間ができる。どんどん伝播し、最後には自分のエンゲージメントも高まる。ぜひチャレンジしてほしい」と語った。

働きがいのある会社・社会づくりに貢献、エンジニア組織はエンゲージメントが高まりやすい?

 エンゲージメントの高め方は、ビジョンや理念にも基づくため企業によって異なる。それでも業界ごとの共通項も少なからずあるようだ。エンジニア組織について、篠隈氏は「他の組織と比べ対話の選択肢が多く相互理解がしやすい」と語る。

 日本語などの言語、設計図やドキュメント、ソースコードなど、対話のきっかけとなる言語が多く、意思疎通の機会が持ちやすい。また、クリエイティブからチームでの開発、個人でひたすらやる仕事、新しい技術を検証する仕事など、仕事の幅が幅広く、個人のやりたいことを見つけやすいというメリットがある。つまり、エンゲージメント向上にチャレンジしやすいというわけだ。

 一方で、デメリットもある。篠隈氏は「コトに向かいづらいこと」だという。セールスやサポート、マーケターなどと比べて、エンジニアはユーザーとの間にプロダクトという壁が存在しており、人によって向き合うものも顧客の価値やプロダクト、技術、開発効率などバラバラになりやすい。チームとして目指す先をはっきりと示さないと「一枚岩になれない」「不和が生まれる」などの問題が生まれる危険性があるという。

 そしてもう一つ、悩ましい問題として「離職しやすさ」があるだろう。エンジニア組織は個々人のやりたいことを提供しやすいがゆえに“満足度”も高めやすい。ということは、自社のみならず他社も同様であり、一定期間享受するために在籍し、際限なく求め、得られるものは全て得たと思い、離職するという傾向がある。しかし、エンゲージメントを高められれば、自律的に動いている状態で、その環境でないとたどり着けない目標を持った状態となり、離職につながりにくくなると思われる。

 なお篠隈氏は、今回具体的な方法論を紹介しなかった理由として、「やみくもに方法論を追いかけるだけでは、決して成果は得られない。目の前の個人、チーム、目指すコトと向き合ってほしかった」と説明した。そして、「エンゲージメントが高まれば、個人がイキイキと働けて幸せになり、組織は業績が上がり、社会により多くの価値がより高頻度に生まれる。ぜひとも働きがいのある日本にしていこう」と呼びかけ、セッションを終えた。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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