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これから考えるエンジニアのキャリアの形

エンジニアが憧れる自由な働き方の実状とは? 日米の顧客と協働するアジャイルコーチ 藤原大氏が語る「楽しい働き方」への道

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 開発者・技術者の働き方として、雇用形態にとらわれない選択肢を選ぶ人が増えている。その一方で、「自由な働き方」に憧れながらも、組織に守られる安心感と引き換えであることに躊躇する人も少なくない。そもそもどんな働き方にもメリット・デメリットがあるのは当然で、本人の”幸せ”につながる選択肢の一つに過ぎないのだ。それでは、こうした自由な働き方はどのような人に向いているのか、スキルやキャリアはどう構築するか。SIerや楽天、メルカリなどのエンジニアとして活躍し、現在は独立してスーパーアジャイルコーチとしても知られる藤原大氏にご自身の経験を踏まえつつ、お話を伺った。

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今回お話を伺った、藤原大氏
今回お話を伺った、藤原大氏

やりたいことができる環境を求めて、40代で独立

――まず藤原さんの現在のお仕事、そしてこれまでの経歴などについてお聞かせください。

 新卒でSIに入社し業務システムの開発に携わってきました。その後、エンドユーザーに近い仕事がしたくなり、楽天に入社したのですが、開発支援組織に配属され、プロセス改善や開発支援ツール導入などの業務にあたっていました。その中でアジャイル開発の知見・経験を積んで、1000人規模の開発組織への導入を支援するようになり、「アジャイルコーチ」を名乗るようになりました。楽天では日本市場のWeb・アプリ開発を担当するなど、希望通りユーザーに近い仕事もさせてもらえたのですが、当時は縦割り組織で、お客さまにいち早く価値を届けるためにプロセス改善を提案しても、なかなか進まないことに停滞感を感じていました。そんな時に、メルカリでテストの自動化やQAにフォーカスした組織を立ち上げると聞き、エンジニアリングマネージャーとして参画しました。

 その後独立して、テスト自動化やQAなどに課題を感じている企業に対するコンサルティングやコーチングを行うようになり、さらに米国ボストンのテスト自動化サービスベンチャーであるmabl(メイブル)のJapan Leadとして日本での業務全般を担当することになって、現在に至ります。

――それぞれの節目でご判断があったかと思いますが、現在の形になられたきっかけなどはありますか。

 そもそもの原点は、SI時代の”闇”ですね(笑)。3か月休み無しで作ったものを、当時のお客さまに「これは前任者が欲しいものじゃない。次の予算で作り直したい」と言われたことがあるんです。いいものを作ったつもりでしたが、担当が入れ替わってしまったらその価値が伝わらない。欲しいもの、求められるものをガンガン作れる環境に行かなければ、もう自分が潰れてしまうと感じました。それで直接エンジニアとして価値を届けられるユーザーサービスに関わりたいと思うようになり、その先の楽天時代に出会った”アジャイル開発”がある意味で福音になりました。「欲しい」と言われてすぐに作れる”アジリティ”を実現できれば、ユーザーにも価値を迅速に届けることができると確信したんです。

 その思いはずっと続いていて、自分たちが作ったプロダクトで、ユーザーにどんどん価値を提供することに愛情とプライドを持ちたいと思ってきました。そうした中で会社や上司の方針との間に齟齬が生じ、軋轢が生まれてしまうこともありました。それが次のステージを模索するきっかけになったんですね。若いうちは齟齬や軋轢から学ぶこともあるのかもしれませんが、40代になって仕事人生も折り返しというタイミングで、そこに時間を費やすよりも、やりたいことをやれる環境に移る方が建設的だと思ったのです。幸い、私の考え方に共感してくださる方や企業も多く、現在の顧客企業やmablも思いが一致したことで、一緒に仕事をすることになりました。

――なかなか共感してくれる企業や仲間を探すのは難しいこと。まして、アジャイルコーチとして顧客を得ることはそう容易いことではないと思うのですが。

 私も最初はそう思っていて、2019年に会社を辞めた時には、既に副業で2社からアジャイルコーチとしての仕事を請け負っていたので、それだけでしばらくのんびりする予定だったんです。でも、アジャイルなどについて発信していたブログで「退職しました」と報告したところ、数社から声がかかり、続々と増えていつのまにか副業が本業になっていました。コロナの影響で契約を見合わせたところもありますが、多い時は10社以上と契約し、うち1社は技術顧問として、そして2020年12月からmablの日本の代表として仕事をしています。

時間やスキルの切り売りではない「楽しい仕事」をするために

――フリーランスで契約したり、契約社員や技術顧問として組織に参加したり、いわば自由な働き方を手に入れた藤原さんですが、あえて安定した企業から離れて現在の形態を選択することに躊躇はなかったのですか。

 うーん、もともとなかったですね。私が就職したのは氷河期だったこともあり、一つの場所でずっと働くイメージは全く持っていませんでした。同じ会社で働くということは、限られた箱の中で働くということ。一つの場所で同じことをし続けて生きていく自信もなく、求めるものがなくなったら次の世界に出るしかないと考えていました。

 それでも楽天には9年ほどいて、開発支援から開発、テスト、運用まで一通り経験させてもらい、アジャイルコーチというテクノロジー以外の武器も手に入れました。ただ、そうなってくるともう挑戦できることが少なくなってくるんですよね。年齢的にもチャレンジを恐れるようになってきたこともあり、あえて意地でも新しいことをやってみるしかないなと考えたわけです。それが、メルカリでの「QA」や「テスト自動化」であり、独立してアジャイルコーチになってからは、さまざまな案件への挑戦であり、mablではこれまで経験したことがない営業やCX、CS活動でした。

――副業の在り方、クライアントの選び方などについて、藤原さんが意識していることはありますか。

 会社の業務以外の仕事について便宜上「副業」と表現しましたが、自分では社内外でほぼ同じことをやっており、いずれも「本業」だと思っていました。何か主務があって、それ以外の時間を使って経験や知見を活用して糧を得るのが副業だとしたら、雇用・契約形態に関わらず、プロとして契約し、ある課題をチームと連携して期間内に解決する、いわばコミットメントを必須とするものが本業だと思います。だから、時間やスキルの切り売り感がなく、コミットしたゴールを目指すために自分のリソースを全て費やし、足りなければ学びつつ補うというスタンスでやっています。時には熱くなってクライアントとぶつかることもありますが、それも進むべきゴールに向かって進むため。本当に楽しい仕事しかしていないんですよ。

 「楽しい仕事」にするコツはいくつかありますが、一つ挙げるとすれば「クライアントの期待値」と「自分が提供する価値」をお互いに理解することです。相手が欲しいものと、自分ができること・提供できることを確認しあい、そこに大きな差異があれば諦めることも必要です。

 実は以前、契約を切られた案件があり、その理由は、私のできる範囲でないことを受けてしまったことにあります。受けたからには、なんとかできればと四苦八苦していたんですよね。でも、その時間はクライアントにとって意味がないこと。本来は私から中断を申し出て、できない理由を伝えたり、できる人を紹介したりするべきだったと反省しています。

 ある意味これは、広い世の中で自分の「身の丈」を知ることにつながります。多少の背伸びや勉強は必要ですが、自分がどんな強み・弱みを持ち、どれくらいの価値を提供できて、それに対する対価を提示してもらえるか。それがしっかりできるようになると、相手も自分も気持ちよく仕事ができるようになります。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

 2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

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https://codezine.jp/article/detail/14690 2021/09/02 11:00

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