社会人3年目、自分がやりたいことを根本から見つめ直す
エンジニアとして就職し、数年が経った。業務にも慣れ、自分なりに仕事のやり方を確立。同僚や上司にも恵まれ、チームワークも良好だ。そんな日常でふと、自分の人生はこのままでいいのかという思いが去来する。エンジニア人生を今後も続けていきたいのだろうか。お金が稼げればそれで満足なのか。
そうした不安や焦燥感を「社会人数年目あるある」と笑いながら話すプレイドのエンジニア、安海悠太氏は、「成長したい、自分のエンジニアとしての市場価値を高めたいといったシンプルな欲求でこれまで走ってきたが、社会人3年目の頃、それが自分の求めるものなのかと、ふと立ち止まって考えるようになりました」と述べた。
そこで同氏は、人生を通じて何をやりたいのか、根本から見つめ直すことにした。軸さえしっかりしていれば、人生のステージで変化があっても微調整で対応できる。
最初に行ったのは、自分の欲求を整理することだ。同氏はマズローの5段階欲求説(生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求)から、社会的欲求と承認欲求、自己実現欲求を満たした「人生で楽しいと感じたこと」を考えた。そして、次の5つが見つかった。
1つめは、特にリモート中心になってから、より感じるようになった他者への貢献感や所属感。2つめは、できなかったことができるようになったときに得られる成長への実感。3つめは、そうした成長を通じて成果が得られたときに覚える達成感。4つめは、自分の住む世界を少しでも楽しい世界に近づけたいという思い。そして5つめは、たとえその時は苦しかったとしても、あとで振り返ったときに良い思い出となるようなものも含めた、心に残る経験だ。
欲求を満たす要素を列挙するうちに、同氏は以前から「面白い事業」に携わっていきたいという思いがあったことを思い出す。同氏にとって面白い事業の条件は、自分の理想と事業の方向性が一致していること、能動的にドッグフーディングするくらいにユーザーとして好きなプロダクトがあること、目的達成までの過程で関わる技術や手段が面白いことの3つだという。
これらを総合したとき、「自分がやりたいことは、自分が面白いと感じる事業を通じて達成できるのではないか」と気付いた安海氏。前職の大手SIerでは、新規事業立ち上げの部署で機械学習関連のデータ分析からモデリング、フロントエンド、サーバーサイド、プロトタイプの実装など幅広く携わることができた。技術選定などの裁量も与えられ、大きな不満もない職場だったという。しかし、事業の構造上、顧客のシステムを構築して納品することが業務であったため、自分でプロダクトを市場に出してトライ&エラーを繰り返すといったチャレンジができない。自分の定義する“面白い事業”とは少し異なり、自分自身の成長も鈍化したように感じた。
程なくして、安海氏は転職することに決めた。同氏は転職エージェントや企業の社員30~40人ほどと面談し、転職先にどんな環境を求めるのか絞り込んでいった。そして、「自社でサービスを持っているか」「会社のミッションに共感できるか」「幅広い技術領域に関わることができるか」の3つが自分には大切という結論に辿り着く。「自社サービスであれば、トライ&エラーで挑戦できる環境があるはず。また、会社のミッションに共感していれば、たとえ事業がピボットしたり、新規に立ち上げた別プロダクトにアサインされたりすることがあっても、多様な変化を楽しむことができます。そして、自分自身はスペシャリストタイプではないと前職で感じていたので、さまざまな技術に触れる機会がほしいと思いました」(安海氏)
望んだ環境でぶつかった壁と、成長のための3つの行動指針
こうして出会ったのが、現職のプレイドだ。望んだ環境への転職に成功した安海氏。しかし、入社して間もなく同氏は大きな壁にぶつかる。
「プレイドのエンジニアはフロントからインフラまでカバーでき、実装も速い。一方の自分はというと、プロトタイプを作る程度の技術力しか持ち合わせておらず、かろうじて被っている技術スタックはVue.jsくらいでした。GCPもAWSもほぼ使ったことがなく、インフラやクラウドに関する知識はほぼありませんでした。ミーティングでは話についていくのがやっとで、発言などできるはずもなく、貢献できている感がゼロでした」(安海氏)
現状を打開するには、何をすれば良いのだろうか。自分には一点突破の強みがないと述べる安海氏。考えた末に打ち出したのは、「自分の強みを作るのと並行して、組織や事業に貢献できるような活動を進んで行う」という方針だ。
例えば作った機能を見せ合う「デモday」など、規模の大きい社内ミーティングでは司会を買って出る、プロダクトへの問い合わせで対応可能なものがあれば能動的にトリアージするなど、落ちているボールはとりあえず拾ってみることにした。「プロダクトへの問い合わせに対応することで、どういう機能がよく使われているのかを学ぶことができ、プロダクトに関する知識も深まりました。また、デモdayの司会をやったおかげで社内の多くの人に顔を知ってもらうことができ、話もしやすくなりました」(安海氏)
ミーティングではひるまず発言するよう心がけた。安海氏は前職で、経験の浅い後輩が発した純粋な疑問のおかげで自分自身の思考を深めることができたという。自分には分からなくても、ちょっとした発言が誰かの気付きになることもあるのだ。
もちろん、自分の強みを作るための取り組みも忘れていない。安海氏は自身の成長を促すために、これまでとは違う領域に挑戦していった。「例えば、CIの高速化や、MongoDBからAtlasへの移行作業といった大きなタスクをやらせてもらいました。今はアーキテクチャ周りの技術力を強化するため、バッチ処理用のワークフローエンジンの移行に携わらせてもらっています」(安海氏)
このほか、取材を受ける、採用に関わるといった、エンジニアの枠を少し超えた業務にもチャレンジしているという。「技術力を高めることも大切だが、人としての多次元的な力を伸ばすことも大切」という考えも、安海氏の行動を後押ししている。
こうした取り組みについて、安海氏は3つのことを意識して実践しているという。
1つは、武器を磨き続けることだ。「何か1つでも自信のあるものを持っていれば組織内で立ち回りやすくなり、結果的にパフォーマンスをより出せるようになります。武器を磨くには、身の丈以上のことをやり続ける必要があります。大変で簡単なことではないが、自分はやればできると楽観して取り組んでいます。さらに、組織固有の知識ではなく、より汎用性の高い、抽象化した知識に変えていくことでも武器を磨くことができるので、他の組織やチームと一緒に活動することも心がけています」(安海氏)
2つめは、守備範囲を広げ続けること。技術が民主化すると、持つべき武器も変わる。そのとき、武器を1つしか持っていないと潰しがきかず、より面白い事業に携わるチャンスを逃す。そこで安海氏は、スキルのかけ算ができる状態を目指し、守備範囲を広げる努力をしているという。
ポイントは、これまでの経験で勝負しすぎないことだと安海氏は言う。「20代の自分が何を言っているのかと思われるかもしれませんが、5年ほどエンジニアをやっていると、自分の経験内で問題を解決しようとし始めてしまいます。それではスキルが固定されてしまうので、定期的に新しい言語やフレームワークに触れるようにしています」
3つめは、環境にこだわることだ。人の成長やマインドはどうしても環境に左右されやすく、前職で自身がそうだったように、居心地が良いと成長は鈍化しがちだと安海氏は過去の自分を振り返る。そこで、同氏は面白い人たちと一緒に働ける環境を作るため、採用活動にも注力しているという。もちろん、今の自分からは少し背伸びした環境へ飛び込むことも選択肢の1つだと安海氏は言う。特に経験が浅いうちは、少し背伸びした環境に身を置くことで一気に成長することがあるからだ。
今も“面白い事業”に関わり続けるための努力を欠かさない安海氏。
「本講演の内容は、あくまでも私個人の価値観に基づくものですが、少しでも参加者の皆さまが自身のやりたいことを見直したり、キャリアについて考えたりする際の参考になれば幸いです」(安海氏)