望んだ環境でぶつかった壁と、成長のための3つの行動指針
こうして出会ったのが、現職のプレイドだ。望んだ環境への転職に成功した安海氏。しかし、入社して間もなく同氏は大きな壁にぶつかる。
「プレイドのエンジニアはフロントからインフラまでカバーでき、実装も速い。一方の自分はというと、プロトタイプを作る程度の技術力しか持ち合わせておらず、かろうじて被っている技術スタックはVue.jsくらいでした。GCPもAWSもほぼ使ったことがなく、インフラやクラウドに関する知識はほぼありませんでした。ミーティングでは話についていくのがやっとで、発言などできるはずもなく、貢献できている感がゼロでした」(安海氏)
現状を打開するには、何をすれば良いのだろうか。自分には一点突破の強みがないと述べる安海氏。考えた末に打ち出したのは、「自分の強みを作るのと並行して、組織や事業に貢献できるような活動を進んで行う」という方針だ。
例えば作った機能を見せ合う「デモday」など、規模の大きい社内ミーティングでは司会を買って出る、プロダクトへの問い合わせで対応可能なものがあれば能動的にトリアージするなど、落ちているボールはとりあえず拾ってみることにした。「プロダクトへの問い合わせに対応することで、どういう機能がよく使われているのかを学ぶことができ、プロダクトに関する知識も深まりました。また、デモdayの司会をやったおかげで社内の多くの人に顔を知ってもらうことができ、話もしやすくなりました」(安海氏)
ミーティングではひるまず発言するよう心がけた。安海氏は前職で、経験の浅い後輩が発した純粋な疑問のおかげで自分自身の思考を深めることができたという。自分には分からなくても、ちょっとした発言が誰かの気付きになることもあるのだ。
もちろん、自分の強みを作るための取り組みも忘れていない。安海氏は自身の成長を促すために、これまでとは違う領域に挑戦していった。「例えば、CIの高速化や、MongoDBからAtlasへの移行作業といった大きなタスクをやらせてもらいました。今はアーキテクチャ周りの技術力を強化するため、バッチ処理用のワークフローエンジンの移行に携わらせてもらっています」(安海氏)
このほか、取材を受ける、採用に関わるといった、エンジニアの枠を少し超えた業務にもチャレンジしているという。「技術力を高めることも大切だが、人としての多次元的な力を伸ばすことも大切」という考えも、安海氏の行動を後押ししている。
こうした取り組みについて、安海氏は3つのことを意識して実践しているという。
1つは、武器を磨き続けることだ。「何か1つでも自信のあるものを持っていれば組織内で立ち回りやすくなり、結果的にパフォーマンスをより出せるようになります。武器を磨くには、身の丈以上のことをやり続ける必要があります。大変で簡単なことではないが、自分はやればできると楽観して取り組んでいます。さらに、組織固有の知識ではなく、より汎用性の高い、抽象化した知識に変えていくことでも武器を磨くことができるので、他の組織やチームと一緒に活動することも心がけています」(安海氏)
2つめは、守備範囲を広げ続けること。技術が民主化すると、持つべき武器も変わる。そのとき、武器を1つしか持っていないと潰しがきかず、より面白い事業に携わるチャンスを逃す。そこで安海氏は、スキルのかけ算ができる状態を目指し、守備範囲を広げる努力をしているという。
ポイントは、これまでの経験で勝負しすぎないことだと安海氏は言う。「20代の自分が何を言っているのかと思われるかもしれませんが、5年ほどエンジニアをやっていると、自分の経験内で問題を解決しようとし始めてしまいます。それではスキルが固定されてしまうので、定期的に新しい言語やフレームワークに触れるようにしています」
3つめは、環境にこだわることだ。人の成長やマインドはどうしても環境に左右されやすく、前職で自身がそうだったように、居心地が良いと成長は鈍化しがちだと安海氏は過去の自分を振り返る。そこで、同氏は面白い人たちと一緒に働ける環境を作るため、採用活動にも注力しているという。もちろん、今の自分からは少し背伸びした環境へ飛び込むことも選択肢の1つだと安海氏は言う。特に経験が浅いうちは、少し背伸びした環境に身を置くことで一気に成長することがあるからだ。
今も“面白い事業”に関わり続けるための努力を欠かさない安海氏。
「本講演の内容は、あくまでも私個人の価値観に基づくものですが、少しでも参加者の皆さまが自身のやりたいことを見直したり、キャリアについて考えたりする際の参考になれば幸いです」(安海氏)