ChatGPTで「アイアンマン」のJ.A.R.V.I.Sを作り、論文を読む
続いては、Spiral AI株式会社の佐々木雄一氏。Spiral AIは、元々は物理学の研究者だった佐々木氏がコンサルタントやスタートアップのCTOなどさまざまな経験を経て立ち上げた会社だ。
そんな異色の経歴を持つ佐々木氏のミッションは「世界の技術を10年分加速させる」こと。具体的には、映画「アイアンマン」に出てくるAI「JARVIS」のようなものを実現することを志している。アイアンマンを知らない読者のために補足すると、JARVISは主人公が装置を作成するように指示すると適切に作成してくれたり、プログラムを書いてくれたりする。佐々木氏が今回紹介してくれたのは、ChatGPTをそんな夢の装置に変える第一歩となるような事例だ。
機械学習やAIに関する論文は、その発展に併せて年々増え続けている。2021年時点では毎月4000本以上の論文が発表されているそうだ。「今ではさらにその2倍ぐらいにまで増えており、論文の量が多すぎて読むことができない状況になっています。しかし、実際に読まなければ重要な知識を得ることはできません」(佐々木氏)
そこで佐々木氏は、JARVISのようにChatGPTに論文を読ませ、それに基づいてQ&Aを作成したら面白いのではないかと考え、試してみたという。「具体的には、LangChainを使ってます。またフロントエンドはStreamlitを使って、GitHub Copilotを使って……と、加速するためのテクノロジーてんこ盛りみたいな感じで、実際の開発時間も15分~20分ぐらいでした」(佐々木氏)
試しに「InstructGPT」という論文について聞いてみた。まずはこの論文が何について語ろうとしているのかを質問する。すると、「アライメントテクニックについて述べている」という回答が返ってきた。しかし、「アライメント」という言葉の意味がまだわからない。そこで、その論文の文脈で具体的に何を指しているのか意味を尋ねる。すると今度は、「アライメントはAIシステムと人間の意図を一致させるための手続きやプロセスである」という回答が返ってくる。たった2往復のやり取りで、論文の主旨がわかった。次に、論文ではアライメントの問題をどのように解決したのかについて質問を投げかけた。すると、「RLHFを使ったファインチューニングをしながら人間の意図とAIの回答を調整するプロセスを繰り返す」という回答が返ってくる。
このようにして、論文の概要をある程度把握することが可能だ。もし細かい点について気になる場合は、さらに読んだり追加の質問をすることで理解を深めることもできる。ただ、佐々木氏は問題点も指摘した。
「文章の中でRLHFという表現が出てきますが、それは強化学習の略語であり、既に知っている人にとっては問題ありませんが、理解していない人にとってはわかりにくくなってしまいます。そのため、こうした専門的な表現について工夫する必要があり、説明ももう少し詳しく行うべく、精度を向上させていくことが必要があると考えています」と述べ、セッションを締めた。