開発の「つらい経験」を減らす品質保証が、開発工程から分断されている
ITシステムは日常に欠かせない存在となっているが、その背後にはソフトウェア品質を担保する品質保証(QA)の力がある。QAが欠けると、便利なはずのITシステムも不具合を生じ、不便に感じるし、セキュリティの脅威もある。AGESTは、この品質保証の専門集団だ。
同社のCTOである城倉氏は独立系SIerに入社し、多岐にわたる企業システムの開発に従事した。その後、ワークフローシステム「X-point」の開発者として、2007年に株式会社エイトレッドを設立し、同社のCTOとしての道を歩んだ。2011年からは株式会社DMM.comラボ(現・合同会社DMM.com)のCTOとして、エンジニア組織の拡大に尽力。2020年10月、AGESTの親会社である株式会社デジタルハーツに入社し、2022年4月からは現職にて活動している。
城倉氏はソフトウェア開発はエンジニアにとって「楽しい体験」だが、品質への取り組みが不足することで「つらい体験」にもなると振り返る。「テストが不足して不具合が生じたり、開発時にもっと配慮しておくべきだった点が見落とされたりすることで、大きなトラブルが発生することがある。そのようなトラブルの根本原因を考えると、品質への取り組みが足りていないことが明らかで、自分もそうした経験がいくつもあった」と述べる。
一方の高木氏は新卒でSIerとして6年間通信系の基幹システムを開発。その中で国際チームとの共同プロジェクトにも携わった。その後、ITコンサルタントとしてフィリピンの企業立ち上げやプロセス改善に従事。そこでソフトウェアテストの重要性を認識し、ソフトウェア品質サービスを展開する企業に移る。その後デジタルハーツからのオファーを受け、エンタープライズ部門のリーダーとして活動。2022年4月からはAGESTでQA事業本部の本部長としてテスト業務を続けている。
ソフトウェア品質に興味を持った背景について高木氏は、「保守を除外すると、ソフトウェア開発全体のコストの約46%がテスト関連に使われているとされています。それにもかかわらず、その部分が大雑把にまとめられていることに疑問を持ちました。従って、この部分を適切に管理する、または技術を向上させることで、成功するプロジェクトの数が増えるのではないかと考えたのです」と語った。
テストはエンジニアリングの一部であるはずだ。しかし、日本の開発では長らくウォーターフォールが主流であった。このため、工程が分断され、テストという独立した工程が存在してしまっている。そうした中で昨今、上流工程から品質を確保する「シフトレフト」という考え方が注目されている。城倉氏は「テスト工程が独立するのではなく、エンジニアリングの過程でさまざまな方法を用いて品質を作り込むことが重要です。そうすると、人の手だけでは難しく、自ずとテクノロジーを活用することとなります。弊社は先端テクノロジーを駆使した次世代のQAを作るというビジョンを持っているのです」と話す。また高木氏も「QA領域においてエンジニアリングを真摯に追求しています。エンジニアが学習する時間もお金もかけていて、他社とは本気度が違います」と強調した。
教育を重視する背景には、現代のソフトウェア品質の3つの課題が
AGESTが教育を重視する背景には何があるのだろうか。高木氏は、現代のソフトウェア品質管理には次の3つの課題があると説明した。1つ目の課題は、技術の大規模化、複雑化、短納期化に伴って、品質保証の難易度が上がっていることだ。過去には、一人のプロジェクトマネージャーやリードエンジニアがシステムの全体像を把握し、品質を管理していたが、現在では複数の企業や多くの関係者が存在しているため、全体のコントロールや品質の統一が難しくなっている。
2つ目は、社会的責任だ。特に「説明責任」という言葉が注目され、開発者自身がテストを行い品質が良好であると判断するだけでは不十分との認識が広がっている。今や、第三者の視点での客観的な評価や検証が不可欠となっている。
3つ目は、ソフトウェアテストに関する技法や技術の成熟だ。ソフトウェアテストの規格や基準が設定され、専門家としてのテスト技法の確立が進んでいる。この結果として、品質専門家の役割や専門性がますます重要になっており、第三者検証の重要性がこれまで以上に強調さているのだ。
城倉氏は「次世代の開発ではエンジニアリングの中にQAが生じます。あらゆる職種・能力を持つメンバーで構成されるチームによって開発していく時代になっていくでしょう」とコメントした。