カギを握るのは「継続的な知識共有」
実際に全社展開するにあたっては、利用環境の整備と並行して、知見を共有する仕組み作りも行った。この「仕組み」の具体例として、堀江氏はLT(Lightning Talk)会の活用を挙げた。これは試験導入の参加者のなかから8名にスピーカーを依頼し、さまざまな言語やフレームワークとCopilotの組み合わせで社内講演を行うものだ。
Copilot全社導入後の効果についてのアンケートでは、Copilotで生産性が向上したと感じた社員は89.4%にのぼっており、試験導入時との比較では10.5%増加。1日あたりの作業時間を節約できたという回答も76.2%にのぼった。
ここで堀江氏は、「1時間以上節約できた」と答えたエンジニアの傾向を掘り下げた。
属性としては「検索/推薦/機械学習エンジニア×Python」の組み合わせが最も多かったが、この属性を持つ全員が「ML・データ部」に所属していた。このグループは職務の性質上GitHub Copilotを含む生成AIへの興味関心が非常に高く、組織横断で勉強会を行うなど独自の形式で知見共有を行っていた。加えて、アンケートで1時間以上時間を節約できたと回答した人は、この勉強会に参加していたこともわかった。
こうした点を踏まえ、堀江氏はCopilotの時間節約効果について、「効果を向上させるためにはCopilotに習熟する必要がある」としたうえで、「勉強会を通じて社内で知見を共有することは非常に有効。LT会では不十分だった」と反省を口にした。
満足度や幸福度、効率フローへの影響についても半数以上がプラスの影響も実感しており、1日の中でコーディングに費やす時間が多くともフロー状態に入りやすくなっていた。堀江氏は「Copilotの導入から半年以上経過したが、今現在も開発者の満足度と幸福度、作業効率に良い影響を与えている」と実感を述べた。
定量的な面では、全体傾向としてリードタイムは減少傾向、プルリクエストの数は増加傾向にあった。とくにコミットしてからリリースされるまで全体のサイクルタイムにおいては、Copilot導入後は22%改善したという成果が見られた。
ビジネス面でも触れる機会が増えるGitHub Copilot
最後に、堀江氏は今後の展望についても触れた。堀江氏はコードレビュー時間の短縮化に改善の余地があると考えており、「CodeRabbitのようなAIによる一時レビューサービスの導入を検討している」としたうえで、「1月からGitHub Copilot ChatをZOZO全社で有効化しているので、まずはその結果を見たい。Copilot ChatはGitHubのサイトやモバイルアプリでも使えるようになるため、開発環境の枠を越えてさまざまな影響が出そうだ」と考えを述べた。
すでに提供が開始されたGitHub Enterpriseや、2024年中の提供開始が発表されたGitHub Copilot Workspaceの存在も踏まえ、「開発サイクル全体を通してAIを活用することで、開発の効率の向上によりCopilotが貢献していくだろう」と期待感を語る堀江氏。「ZOZOの目標はユーザーに届ける価値を増やすことだ。ビジネスと開発の両方でAIを活用して、ユーザーに届ける価値を増やすという目標を達成できるよう取り組んでいく」と決意を語り、講演を締めた。