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Developers Summit 2024 Summer レポート

技術力だけでは乗り越えられないビジネスの壁を乗り越える!推し技術を組織に根付かせる「戦略的エンジニアリング」

【23-A-7】エンジニアのための処世術 ~ 推しの技術を採用させるメソッド

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 技術者の中には、「これは素晴らしい!」「みんなに勧めたい!」と感じる"推し"の技術を持っている人も少なくないだろう。一方で、その技術の素晴らしさを上司や経営層に熱心に提案しても、渋い顔をされたり、やんわり断られたりした経験があるかもしれない。技術的に優れているのは明白なのに、推しの技術はなぜ経営層に受け入れられないのか。その背景には、技術力だけでは乗り越えられないビジネスの壁が存在している可能性がある。本セッションでは、株式会社NTTデータグループ 技術革新統括本部 Apps & Data技術部の菅原 亮氏が、エンジニアが"推し"の技術を組織に採用させるための具体的な方法について語った。

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戦略と戦術の違い、エンジニアが陥りがちな失敗とは?

 初めに菅原氏は、自らのキャリア初期を振り返りながら、エンジニアが陥りがちな「推し技術を採用させる難しさ」について語った。駆け出しのエンジニア時代、技術への情熱にあふれていた菅原氏は、新しい技術の魅力を実務で活かすべく積極的に提案を行っていたという。「これは便利だ、面白い!」と感じた技術を上司に持ち込み、「最近の技術界隈で流行っているので、うちでも採用しませんか?」と働きかけたのだ。しかし、上司から返ってくるのは決まって「面白そうだが、サポートはどうする? 問題が起きたときにちゃんと解決できるのか?」といった懐疑的な反応だった。

株式会社NTTデータグループ テクニカルグレード 菅原 亮氏
株式会社NTTデータグループ テクニカルグレード 菅原 亮氏

 当時の菅原氏は、「優れた技術ならば、自然と受け入れられるはずだ」という純粋な信念を抱いていた。しかし現実は厳しく、その考えは何度も打ち砕かれた。「良い技術がプロジェクト全体をハッピーにする」と信じていたが、採用には至らなかったのだ。提案が拒まれ続けるうちに、次第に菅原氏の心は折れ、「何をやっても無駄だ、会社の言う通りにやればいい」と投げやりになる時期もあったという。

 熱心なエンジニアほど、最新技術や"推し"の技術に夢を抱きがちだ。当時の菅原氏も、新技術の提案時には熱意たっぷりに「本当に便利で、使える!」と語っていた。しかし、これは「シーズ志向」に陥っている状態だったと菅原氏は振り返る。

 シーズ志向とは、技術そのものの要素に注目し、それを中心に考える姿勢のことだ。つまり「技術ありき」のアプローチであり、技術を愛するエンジニアゆえに陥りやすい落とし穴でもある。技術の魅力や特性をアピールすることは重要だが、それだけでは不十分なのだ。

 技術の採用を決定する立場にある上司や経営層が重視するのは、「プロジェクトや顧客のニーズをどう満たせるか」という視点だ。彼らは常に「戦略的」に物事を捉えているのに対し、エンジニアは「技術」という戦術的な視点に終始しがちだ。戦略(strategy)と戦術(tactics)は似ているようで、その意味は全く異なる。菅原氏も、当時この違いを理解していなかったために、推し技術の提案が採用されなかったのである。

技術者の視点と上司の視点には、「戦略」と「戦術」という明確な違いがある
技術者の視点と上司の視点には、「戦略」と「戦術」という明確な違いがある

 戦略とは、組織の方向性や達成すべきゴールを示すものであり、経営層の関心は常にここに向いている。会社のキックオフや方針説明などで語られる「組織の目指すべき方向」は、技術者にとって退屈に感じられるかもしれない。実際、菅原氏も若い頃は「偉い人だけで勝手にやってくれればいい」と感じていたという。

 「今振り返れば、戦略は実は技術者にとっても『ネタの宝庫』だ。もし過去に戻れるなら、あの場で経営層の話に耳を傾けるだろう」と菅原氏は語気を強める。なぜなら、会社のキックオフや方針説明の中には、プロジェクトで技術をどう採用するかのヒントや方向性が詰まっているからだ。つまり、上層部が示す戦略こそ、推し技術を活かす道筋を見出す手がかりとなる。

 一方、戦術とは戦略を達成するための具体的な手段である。昨今では、手段と目的が逆転するケースが増えており、「AIを使うこと」が目的化してしまうプロジェクトが、その典型例だ。こうした場合、何を達成するための手段なのかが見失われてしまい、ビジネスの観点から説得力を欠くことになる。菅原氏は、「技術は戦術であり、あくまで目的を達成するための手段にすぎない。だからこそ、技術が前面に立つべきではない」と強調する。かつての菅原氏を含め、若手エンジニアほど技術の面白さに引き込まれ、戦術ばかりを語りがちだ。しかし、重要なのは「何を達成するためにこの技術を使うのか」という視点だ。

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この記事の著者

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

CodeZineは、株式会社翔泳社が運営するソフトウェア開発者向けのWebメディアです。「デベロッパーの成長と課題解決に貢献するメディア」をコンセプトに、現場で役立つ最新情報を日々お届けします。

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水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

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