絶え間なく変化が続く時代に有効なアジャイル開発
──前編ではスクラムの源流に初代プリウス開発があったという話がありましたが、なぜ初代プリウスがスクラムの源流と言われているのでしょうか?
川口:一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんと竹内弘高さんが日本の製造業について研究した文献があります。これがジェフ・サザーランド博士の目にとまり、スクラムを考案する過程で1つの資料になったと言われています。今回の取り組みで初代プリウス開発とスクラムのミッシングリンクがうまり、言語化されるということは、非常に価値があると思います!
竹内:まずは、あらためて背景を振り返っておいたほうがいいと思います。初代プリウスは短期間で開発する必要がありました。今、自動車業界は変化の時代にいます。
川口:世界的なアジャイルコーチのリサ・アドキンスさんは「今は変化が普遍的となり、さらに指数関数的に加速化している。こういう時代だからこそアジャイルが必要だ」と説いています。ITの世界なら、Windows 95以降、98、XPなど、変化の後に一定の安定期があり、次の変化が訪れるという流れでした。今では常に変化が続いています。
竹内:自動車業界に置き換えると、最初の内燃機関が出てから変化と安定期が繰り返されていました。1997年の初代プリウス発売後に安定期がありましたが、2010年を過ぎると、電気自動車(BEV)やフュールセル(FCEV)が登場するなど、変化が続いています。安定期がない時代になりました。
南野:電気自動車の生産・販売が100万台になるまでにかかった期間で見ると、新規参入したテスラで約9年、BYDで約7年、トヨタは約3年で達成する予定です。大阪万博ではクルマの代替がたくさん登場しますし、さらに「もう移動なんてしなくていい」とメタバースの世界も登場しています。
そうしたなかトヨタは電気自動車に特化することなく全方位、マルチパスウェイで進んでいます。エンジンも開発していますし、水素社会も目指しています。昔ながらのウォータフォール開発ではとても太刀打ちできません。変化が激しい時代ですから、数年もすると未知のものが世界を席巻してしまうかもしれません。だから、アジャイル的な開発方法が必須なのです。
──従来(ウォータフォール)のトヨタにはない、スクラムならではのプラクティスを挙げるとしたら何がありますか?
南野:一番特長的なものは、モブプログラミングですね。
竹内:モブプログラミングは、デイリースクラムでチェックするよりも短いサイクルで行うため、常に同期しており、最も変化に強いと思っております。しかし、みんなで共有しなくてはならないため、トヨタには苦手な人が多いと思います。
川口:それぞれの開発や技術要素における高度な専門家・ナレッジワーカーが多いためですね。ソフトウェアなら無茶苦茶できる各方面のプログラマーがいるような状態なので、それぞれが独自に進めた上で合わせていく文化だからですよね。研究者たちも同じかと思います。
竹内:ソフトウェアならデータベースのスペシャリスト、ユーザーインターフェースのスペシャリストがいるように、ハードウェアも専門性が高くてローテーションが利きにくいのです。しかし、新しいことに取り組もうとすると、みんなの知識が必要になります。