開発手法の参照から用語・文献のガイドまで幅広く活用
鷲崎氏は実際の開発現場におけるSWEBOKの具体的な活用法として、各個人・各社の業務プロセスを見直したり、組み立てたりといった活動を行う際の参照モデルとして使うというケースを挙げた。SWEBOKは立場を問わず共通の知識や理解を得ることを目的とするだけに、知識領域やロールごとにさまざまな活用法がある。
たとえば不確実かつ複雑でダイナミックなシステム開発に携わる際には、鷲崎氏自身も「しばしば行き当たりばったりな試行錯誤を重ねることがある」。こうした状況でも、闇雲にトライを重ねるのではなく、科学に裏打ちされた技術活動・学問体系としてのエンジニアリングを行うためにSWEBOKを参照し、プロセスを組み立てて開発を進めるのが理想というわけだ。
SWEBOKはAIプロジェクトキャンバスや機械学習キャンバスなどの発展的な領域も支えてくれる。たとえば機械学習システムやコンポーネントを設計する際には、Ver.4で追加したアーキテクチャを参照して設計やモデリングなどを行うのが効果的だ。こうして出来上がったシステムやコンポーネントに対し、中核を成す機械学習モデルの訓練と評価、修正を実践する一連の流れはまさにDevOps的であり、ここでもSWEBOKの知見が生きてくる。
「たとえ最先端の領域でも、大事なことは、プロジェクトとしてシステムとして、どういう要求・価値を満たすのかというハイレベルな目的を押さえることだ」と語る鷲崎氏。技術や手法の深掘りを行う際の文献ガイドとしても役立てられるというSWEBOKは、研究開発においても頼もしい存在になってくれるだろう。
SWEBOKには、ISO標準やIEEE標準といった各種の国際規格群を整理し、用語をすり合わせて理解を統一するという、辞書的な使い方もある。エンジニアリングの現場では、「方式設計/アーキテクチャ設計」のように工程や概念を表現する言葉が会社ごとに違ったり、「詳細設計」がさす意味合いが異なったり、といった誤解がつきものだ。こうした用語理解を統一するうえで、SWEBOKは強い味方だ。
ソフトウェアエンジニアリングの未来を創造する3軸
「複雑・不確実な開発運用時代だからこそ、まっとうなエンジニアリングの力が求められている。機械学習システムの開発における動的なアプローチはまさにその代表例だ。アジャイルな取り組みを行き当たりばったりなものにしないために、SWEBOKの知見が生きてくる」と再度強調する鷲崎氏。
講演の最後には、ソフトウェアエンジニアリングの未来について「IEEE-CS Technology Predictions Report 2023」を引用しつつ、あるテクノロジーが発展する可能性と、ヒューマニティ(人類全体の幸福や社会的価値)の関係について述べた。
AIにサポートされたDevOpsや拡張現実、生成AIはテクノロジーとして発展する可能性こそ大きいものの、「人類の幸福へ与えるインパクトは必ずしも大きくないし、悪用などのリスクもある」。一方でサステナビリティ(持続可能性)を支えるIT技術は、それなりに成功可能性が高く、人類の幸福にも好影響を与えるとみられている。
「昨今のトレンドに鑑みると、リスクも孕む生成AI、期待度の高いサステナビリティへの注力に加え、AIによってアシストされたDevOpsがソフトウェアエンジニアリングの未来を左右するといえるだろう。そしてSWEBOKは、その礎となる知見を授けてくれるはずだ」。鷲崎氏はそう総括し、講演は終了した。