アジャイル開発を取り入れるためには
──モブプログラミングで成果を挙げたところですが、モブプログラミング以外で試してみたいプラクティスはありますか?
川口:心理的安全性はどうですか?
竹内:アジャイル開発はプロセスとマインドを合わせて実施していきます。プロセスはスクラムとモブプログラミングで短サイクルで情報を同期し、マインドは心理的安全性と自律したモチベーションで知的生産性を最大化していきます。両方がそろわないとアジャイル推進できないので、今は(心理的安全性も含めて)整えている段階です。
パワートレーンカンパニーでは、アジャイル開発のひな形を作りました。トヨタの用語に置き換えていますが、これはまさにスクラムです。「チーム作りから始まり、働き方合意、開発課題リスト策定、プロダクトゴール明確化、小サイクル期間決定」これはスプリントのことです。ここまで準備できたら開発アクションプランを作成して、開発活動を進めて行きました。
南野:スクラムに慣れた方には用語に違和感があるかもしれませんが、トヨタ内部に伝わりやすい用語に置き換えたスクラムになっています。今はパワートレーンチーム向けですが、今後全社に広がっていくのではないかと思います。
川口:スクラムで定義された用語だと「それはソフトウェアのものでしょ」となってしまいます。しかしスクラムの源流にトヨタさんのプラクティスがあるので、トヨタ用語に置き換えられるのです。地道に調べて議論してこの形に置き換わってきました。社員が「こんなの当たり前じゃん。すでにやっているでしょ」と思ってくれてもいいんです。
竹内:いきなり「いまのやり方は止めて、スクラムにしてください」と社員に言ったら混乱するだけです。社内で流通しているやり方に、スクラムをマッピングするようにしています。
──最後に、今後アジャイル開発やスクラムを採り入れていこうと思う読者にアドバイスをお願いします!
南野:アジャイル開発に拒絶反応を示す人もいますし、アジャイル開発を流行りのように受けとめる人もいます。しかし、いったん立ち止まり自分たちの仕事の本質は何かを考えてもいいと思います。また、どの会社でも必ず何らかの形で変化への対応はしていると思います。そうしたものを確認した上で、体系的にまとまっているスクラムなどの教科書と比較して「この部分はこれがいいな」と思えたら試行し、採用すればいいと思います。
川口:先ほど示したように、用語を社内で伝わりやすいように直したことが重要なポイントです。本質は何かを見極めることが重要ですね。
竹内:ステーシー・マトリックスというのがありまして、2つの不確実性から混沌、複雑、簡単などと分けることができます。技術的不確実性と要求事項の不確実性が高い右上ほど共同作業が効率的で、マインド面は心理的安全性や自律性が必要になります。
プロセスだけではだめでセットで進めていく必要があります。今トヨタでは、アジャイル開発をやり始めましたが、開発が進むとだんだん左下に落ちていきます。もしどちらの不確実性も落ちてきたら、アジャイル開発を引っ張る必要はなくて、従来のやり方となる定型化や分業が有効です。
あと『アジャイルリーダーシップ』という本に書かれていますが、アジャイル開発を組織で機能させるには、従来手法も含めてさまざまなやり方のなかでアジャイル手法をうまく組み入れていくことが必要になります。
アジャイル開発をスムーズに取り入れるには、リーダーやマネージャーは従来のやり方を調整するアダプターとして意識すること、アジャイル活動の障害を取り除く(内外緩衝)やアジャイル開発が機能する場所(特区)の提供などを考えていく必要があるでしょう。
──ありがとうございました。今後のトヨタ自動車の変革を楽しみにしています!