初代プリウスを分析して得たスクラムのヒントとは?
──自己紹介をお願いします。現在、どのようなお仕事をしていますか?
竹内伸一(以下、竹内):これまでパワートレーンとスポーツ車両で、幅広く技術開発の現場に携わってきました。現在はパワートレーン機能・性能開発部でプロジェクトマネージャーやアジャイルコーチをしており、社内ではアジャイル開発やスクラムを推進しています。
南野圭史(以下、南野):エンジン設計・評価を軸に開発に関わり、問題の未然防止や再発防止を通じた品質向上に取り組んできました。今は、パワートレーン統括部/プロジェクト進行管理室に所属し、プロジェクトマネジメントの構造改革に取り組んでいます。
ソフトウェア開発で例えたら、従来のクルマの開発はウォータフォールに近かったのですが、昨今ではさまざまなクルマが登場し環境変化が激しくなりました。そこで、より柔軟で高速に開発するためにアジャイルな取り組みの必要性が増しています。竹内さんが心構えを考える部署だとしたら、我々の部署はそれを実行する場所と捉えていただけたらいいかと思います。
川口恭伸(以下、川口):アギレルゴコンサルティングでアジャイルの研修や支援をしているシニアアジャイルコーチです。一般社団法人スクラムギャザリング東京実行委員会 代表理事もしており、日本のスクラムのコミュニティの育成に携わっています。アジャイルの支援をするなかで今回の件で竹内さんからお声がけいただいて、お手伝いをしました。
──念のためパワートレーンについて補足いただけますか?
竹内:主に原動機(エンジンやモーター)からタイヤの前までの動力伝達部分をパワートレーンと言います。ハードウェアもソフトウェア制御もあり、全体を通して1つのシステムとしてとらえています。
──アジャイル開発に関連して初代プリウスをテーマに研究されたとのことですが、まずは背景や経緯を教えてください。
竹内:私はアジャイル開発やスクラムを社内で広めるという使命があるのですが、伝統的かつ、成功体験が強い会社では、新しいものを導入するのは難しく、苦戦していました。
南野:正直、当初アジャイルとはソフトウェア開発のものだと思っていました。ところが、「それは違う、スクラムの源流は日本の製造業にある」と川口さんに教えてもらいました。
川口:スクラム考案者のジェフ・サザーランド博士は、書籍や講演でスクラムを考案する過程でトヨタの初代プリウス開発からインサイトを得たと語っています。スクラムコミュニティから見ると「スクラムの源流にトヨタがある!」と声高に言いたいところですが、トヨタにいる竹内さんたちはピンときていない。いろいろ模索する中でトヨタ社内には初代プリウス開発者たちのインタビュービデオがあると聞いたのです。
竹内:社内向け活動記録でしたが「プリウス開発におけるこの部分がアジャイルで言うところのこれだ」と翻訳して紐付けることができれば、社内でアジャイル開発への理解が深まるのではないかと考えました。そこで川口さんたちにも手伝ってもらい、体系的にアジャイル開発が分かるように整理することにしました。
──それで初代プリウス開発者のアーカイブビデオからアジャイルやスクラム視点で分析したのですね。いつごろから取り組まれたのでしょうか?
竹内:2023年3月、大手町で実施されました。ビデオテープが7本もあり、長い時間を要しました。全て見終わる頃には、疲労困憊でしたが、最後までやりきりました。
南野:その時は日本を代表するアジャイルやスクラムの専門家(川口恭伸さん、松元健さん、永瀬美穂さん、秋元利春さん)らでドリームチームを結成してもらいました。素晴らしいチームでした。