エンジニアが知っておくべきメール配信のアンチパターン
中井氏と東氏は、新ガイドラインについて述べた後、ガイドライン以外にも知らなければいけないこと、守らなければいけないことが沢山あるとして、メール配信において避けるべき「アンチパターン(誤ったアプローチや解決策)」を紹介した。
ダブルオプトインをやらない
ダブルオプトインとは、メールアドレスを取得する際に、まずメールアドレスを入力してもらい、そのアドレスに送信したメールの中のリンクをクリックしてもらうことで、登録完了とする仕組みだ。ダブルオプトインは、メール送信者にとって大きなメリットがあるので、東氏は「やらないのはおかしい」と指摘した。
メリットとしては、まず受信の意思を明確に確認できる点がある。また、メールアドレスが実在する人間のものであることが保証されるため、信頼性が高い。さらに、受信者自身がメールの到着を予測しているため、万が一メールが迷惑フォルダに入っても、自ら探してくれる可能性がある。そして、スパムトラップ※が自社の送信リストに混入しないという利点も挙げられる。
※スパムトラップ:メールボックスプロバイダーやブラックリストを管理する団体が用意している「罠のメールアドレス」。スパムトラップにメールを送信していると、悪質な送信者とみなされてブラックリストに載る可能性が高まる。
登録者のメールアドレスは絶対に消さない
最初は興味があって登録したユーザーでも、やがては興味が薄れメールを開かなくなる。読まないユーザーに送り続けるのは不要なコストであるだけでなく、読まれないとやがてスパムフォルダへと振り分けられ、その結果、送信ドメインが「不要なメールを多量に送信している」悪しきドメインと判断されかねない。
読まないユーザーのメールアドレスは、適切なタイミングでリストから削除することが重要だ。メリットとして、メール配信工数の削減や、悪しきドメインと誤解されるリスクの低減がある。
配信停止を分かりにくくする
興味関心の薄れたユーザーにメールを送り続けるのは好ましくない。そのためGmailのガイドラインは、配信停止を簡単に行えることを求めている。しかし、一部の企業は配信停止の方法を分かりにくくしたり、返信を受け付けていなかったりしている。これでは、ユーザーが配信停止を行いたくても、停止できず、最終的にスパム報告されかねない。配信停止を分かりやすくして、送信リストの適正化を目指すべきだ。
バウンスメールを放置する
受信されずに戻ってくる「バウンスメール」を放置してはいけない。特に、宛先メールアドレスが存在しないなど、恒久的な不達が見込まれる「ハードバウンス」の場合は、直ちに送信リストから当該アドレスを削除すべきだ。
一方、ドメイン認証の失敗やメールボックスが一杯など、一時的なエラーと判断されるケースは「ソフトバウンス」と呼ばれる。こちらは、発生状況を確認し、必要に応じて送信設定の見直しや、送信速度の調整といった対応を行う必要がある。
安易な変更をする
メール運用中に、メール送信者としての信頼性(レピュテーション)が低下し、メールが届きにくくなってしまった時に、送信元メールアドレスやIPアドレスを安易に変更するのは避けるべきだ。受信側から見ると、突然知らない送信元からメールが来るように見えるため、かえって信頼性を損なう可能性がある。
何かを変更する場合は、計画的な「暖機運転」が必要だ。例えば、メール形式をテキストからHTMLに変更する場合も、大きな変更と見なされるため、徐々に行う必要がある。
必要な変更をなにもしない
送信リストの更新や配信サーバーの調整、配信頻度やコンテンツへの配慮は、行わないといけない変更だ。こうした「必要な変更」は即座に対応すべきである。
XやGitHubなどは、定期的にメールアドレスの確認を促すダイアログを表示するが、これは配信の信頼性を高められる有効な手段と言える。
また、メールの配信頻度が高すぎると、ユーザーは煩わしいと感じてスパム報告ボタンを押すかもしれない。一方で年に1回しか送信しないようでは、レピュテーションを高く維持できないだろう。ユーザーにとって魅力的で必要とされるコンテンツを、適度な頻度で配信することも重要となる。
中井氏は、「多くの場合、送信工程は粛々と日々の作業をこなすことが中心で、ユーザーから停止を求められるまで特に目立った対応をしないことが多いと思われます。しかし、今まで述べたように、日々のモニタリングと適切な運用管理はとても大切です。こうした管理を自社だけで全て行うのは大変なので、Twilio SendGridのようなクラウド型メール配信サービスの活用もお勧めです」と、専門サービスの活用が効率的な運用管理につながると唱えた。
東氏も「ガイドラインが新しくなったから、新常識が生まれたというわけではありません。以前から、徐々に変化の兆しは見られました。たまたまGoogleなどのIT大手企業から、これからは皆が対応するべきだと発表したことで、その変化が明らかになっただけです。変化は常に起こっています」と語った。
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