アジャイル体制についていけないエンジニアが続出
DevOpsの推進体制については、具体的な戦略を考える戦略チームや実際のアジャイル開発を行う実践チーム、品質管理の標準を検討する品質管理チームなど6つのCoE組織を設置。各領域の課題に取り組みつつ、合同で取り組むべき課題においては連携しながら活動を進めていった。
各組織の人員構成についても、戦略立案を得意とする関西電力出身者と技術面に優れる関電システムズという、それぞれの得意領域を持ち寄る形で編成した。こうした構成についても、西内氏の「全体を変革する大規模施策においては、親会社側からアプローチする方がやりやすい」という考えのもと、最初に関西電力側に多くの社員を逆出向させる方式を取った。その後は関西電力側からの出向を受け入れる形で業務移管を行い、現在ではほとんどが関電システムズの社員に置き換わっている。
さらに関電システムズでは、最初期からアジャイルコーチをつけたり、先行事例調査を行って事前に対策を立てたりといった「安全第一」に資する取り組みも実践。そうした取り組みと並行してガイドラインの改善なども行いつつ、関電システムズにおけるアジャイル体制の向き・不向きを探ることも進めていた。
長期施策としての第一歩を踏み出したDevOpsだが、実際の取り組みにおいては「予想以上の困難に直面した」と西内氏は振り返る。開発チームは長年レガシーな環境で仕事を進めていたため、基本的なツールの使用にも不慣れなメンバーが多く、開発が遅々として進まなかったのだ。
長年ウォーターフォール型の開発に慣れたエンジニアのなかには、「チームで働くことのしんどさ」を感じている者もいた。さらに関西電力が行っている2~3年に1度のジョブローテーションでメンバーが変わってしまうことで、関電システムズ側のエンジニアと、アジャイルについて1から勉強しなければならない関西電力側のメンバーの間で、大きな温度差とスクラムへの停滞感が生じた。
音頭取りは「すごい人」じゃなくていい
あちこちでアジャイルの推進・導入に疑念があがるなか、西内氏自身もスクラムの進め方に苦心しており、「これはみんなを苦しめているだけなんじゃないか」と深く迷っていたと回顧する。カンファレンスで素晴らしい発表を見るたびに「私はこんなにすごくないから」と落ち込む日々が続いたものの、同僚からの「一緒にやりましょう」という声かけが心の支えになったという。
「カンファレンスで華麗な経歴と実績を紹介する"すごい人"がいなくても、私たちができる方法で変えていくしかない」と決意を新たにした西内氏は、全ての部門を回ってひたすら説明を行うことからアジャイルへの取り組みを再スタートした。予算編成のスケジュールに合わせたアジャイル説明会に加え、関電システムズのエグゼクティブ層を対象とした2~4時間の説明会を何度も実施し、個別に対応することで本音を聞き出すディスカッションを重ねた。
チームの一体感の欠如に対しては、自分たち自身がスクラムになるという「CoEスクラム」でチームの運営方法を変更した。これは各チームの計画タスクを1つのバックログで見える化し、毎月全員で振り返りを行うというものだ。年初に立てた計画は重視しつつ、他CoEチーム支援のために自チームタスクの優先順位を落とすなど柔軟性を意識。「他チームの仕事をすることで見えてくるものもあった」と西内氏は話す。
研修についても、アジャイルそのものへの理解が不足している状況を改善するため、まず役員や管理層からアジャイル研修への参加を促して説明を重ねた。初回は多少の強制力を持たせ、少しでも興味を示す人がいれば捕まえて話をし、その中で「一緒に取り組んでいきたいんです」というメッセージを繰り返し伝えていった。