新卒3年目の過ごし方が次のキャリアを決める
まずは高島氏のキャリアを紹介しよう。2013年に新卒で関西のゲーム会社に入社し、ソーシャルゲームの開発・運用に従事。2017年に活動拠点を東京に移し、音楽教室のバックエンドシステムの開発に従事する。そんな中、2018年に前職の知人に誘われ、ゲーム会社の設立メンバーとしてジョインすることに。ここでGoogle Cloudと出会い、そのわかりやすく楽しい開発体験に魅了され、Google Cloudのパートナーであるクラウドエースに転職したのが2020年のことである。
そして、現在は認定トレーナーとして公式トレーニング実施やコンサルティングを行うほか、Google Cloud Partner Top EngineerやChampion Innovatorsとしての活動に従事している高島氏。2023年からは官公庁と民間企業で兼業するというユニークなキャリアを歩んでいる。
そんな高島氏は、新卒入社から4年目で最初の転職に踏み切った理由として、次の3つのポイントを挙げた。
1つ目は、「新卒3年目で業務に慣れてきた」こと。当時のソーシャルゲームといえば、ガラケーの真ん中にあるボタンを押してクエストを進めるような、単調なものが主流だった。つまり、裏側のシステムは使い回しであり、とにかく同じコードをコピペしておけば良いのである。これにより、当時の一部界隈では「ソシャゲエンジニアは業務での成長が難しい」と話題にあがることもあり、高島氏も自身のキャリアに不安を覚えるようになっていた。
2つ目は、「外部勉強会」に参加するようになったこと。新卒3年目で業務に慣れてくると、時間的にも精神的にも余裕が生まれ、技術トレンドに興味が湧き、さまざまなイベントに参加したり登壇したりするようになっていったという。「自分と同じような経験を積んでいるエンジニアが、インフラ側も含め幅広い領域を担当していることを知り、刺激になった」と高島氏は振り返る。
3つ目は、2015年頃から始まった「AWS・コンテナ黎明期」という技術トレンドの変化。「AWSってすごいのが出てきたぞ!」「これからの時代はDockerだ!」「誰でもインフラエンジニアになれるぞ!」と騒がれるなか、いわゆるコーダーだった高島氏も「これはもうやらざるを得ない」と感じたという。
これらの内的・外的な要因が絡み合ったところに転職エージェントから声がかかり、高島氏は転職して東京に拠点を移すことを決意したのだった。
キャリアの転機は人がもたらす
他方、岩成氏の経歴はというと、2017年にグーグル・クラウド・ジャパンに入る前は、新卒で入社したSIerにて、開発者向けツールの開発や開発プロセスに関連するR&Dに携わっていた。
約13年の社会人歴の中で1回しか転職していないというのは、一見シンプルなキャリアのように思える。しかし、実はこの中で、2〜3年ごとに部署を変えたり、副業として書籍の執筆や外部向けの研修講師を務めたりするなど、転職とは異なる形で新たなチャレンジを重ねてきたという。「一緒に働く人、領域、環境を変えるなど、何かしらを変えなければ学習曲線がどうしても“サチッて”きてしまう」と岩成氏は語り、働く環境に変化をもたらす重要性を説いた。
そんな岩成氏がグーグル・クラウド・ジャパンに転職したきっかけは、グーグル・クラウドに転職していた先輩との会話だった。「前職では、アジャイルやCI/CDの技術支援・研究開発をしており、クラウドを使う機会があった。そのタイミングで先輩からグーグル・クラウドの仕事や働く環境について話を聞く機会があり、ご縁があって東京リージョンができた翌年に転職することになった」。
このようなきっかけを掴むには、イベントのような場で社外の人とつながったり、新しい技術トレンドに触れておくなど、外に目を向けることが大切だという。「やりたいことがあるなら、とにかく『やってみたい』と周りに伝えておくことがチャンスにつながる。キャリアチェンジやキャリアシフトの機会は、人からもたらされることが多いはず」と語る岩成氏。
そのような種まきに加え、日頃の仕事を通じて、一緒に仕事をしたいと思ってもらえる人を増やしておく重要性にも言及した。「スタートアップでリファラル採用が多いのは、どんなにハイパフォーマーであっても、ゼロから信頼関係のあるチームを築くのは時間がかかってしまうからではないかと思う。日常の業務の中で、自身のスキルを向上させるだけでなく、仕事に対して誠実に取り組むことで、自分が困ったときに助けてもらえたり、逆に相手が困ったときにはあなたの顔が浮かぶようになる。そんな人を増やしておくことが、結果的に新たなキャリアにつながることもあるかもしれない」。
たとえ計画通りにいかなくても、キャリアプランを立てよう
これまでの2人の話でも上がっていた通り、技術トレンドはエンジニアのキャリア形成に大きな影響を与えるものである。今、無視できないのは、言わずもがな“生成AI”の隆盛だろう。
データベースが専門領域の高島氏は、「クエリを書いたりベクトル検索をしたりする際に生成AIを活用している。もはや他人事では済まされないし、やらざるを得ない状況になっている」という。また、Google の生成 AI Gemini のプリセールスである岩成氏も「『生産性を上げて担当領域を広げる』『アウトプットのクオリティを上げる』『自分が苦手な分野や未経験の分野に挑戦する』といった観点で、やはり生成AIは欠かせない」と語る。
こうした技術トレンドを追いかけることに加え、2人が必要性を示したのが、業務外でキャリアプランを立てることだ。25〜26歳くらいまでは流されるままだったという高島氏だが、「ここ数年はマンダラチャートを書いている」と明かす。「真ん中に『つよつよエンジニアになる』とか『スーパーSREになる』などと書いて、そのために必要だと思われるスキルや興味のある分野をひたすら挙げていく。その際に気をつけているのは、フルスタックエンジニアのようなジェネラリストは目指さないこと。好きな技術に注力してスペシャリストになってから、その派生で広げていくようにしている」。
これに対し岩成氏は、米国の第34代大統領ドワイト・アイゼンハワーの「計画に価値はないが、計画立案の過程にはあらゆる価値がある」[1]という言葉を用い、キャリアプランを立てる重要性について次のように説いた。「キャリアプランを立てても、たいていその通りにはいかない。だが、計画を立てることによって、次に何をするのか、どこに時間を投資すべきなのかが見えてくる。社内で目標設定を行うことはあると思うが、それだけでは社内の業務に関する話題に閉じがちであり、現在の会社では実現可能性の低いことに言及するのは難しいかもしれない。だからこそ、できれば1年に1度、難しければせめて数年に1度の頻度で、自分のキャリアプランを書き出す時間を設けるようにしている」と語り、セッションを締め括った。
[1] 原文:Plans are worthless, but planning is everything. 翻訳は『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』記事「先行き不透明だからこそ、明確なビジョンを掲げなさい」から引用。