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生成AI・AWS Skill Builderで実現! 現場エンジニアが語る、全社的リスキリング最前線

【13-E-5】生成AI・AWS Skill Builderで社内リスキリングを推進!現場エンジニアが語る、新技術普及の勘所

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 大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートを行う株式会社Works Human Intelligence(WHI)。「はたらくすべての人が真価を発揮できる社会」を目指し、社内においてもスキル&リテラシーの向上に取り組んでいる。その一環として生成AI活用リテラシー向上を意図し、全社的な生成AI基盤となる「WeiseHub」を構築。また、AWS Skill Builderアカウントを50人体制で取得した。それぞれの導入と普及活動について、推進役を担った同社の寺尾拓氏、小島杏水氏が課題や苦労したポイント、改善策などを織り交ぜて紹介した。

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「会社の中の知恵が集まる場所」として生成AI基盤「WeiseHub」を構築

 生成AIは非常に重要なテクノロジーながら、その導入は決して簡単ではない。技術的な理解だけではなく組織全体での受け入れやセキュリティ、プライバシーへの対策も考えていく必要がある。2023年に全社的な生成AI導入プロジェクトを開始したWorks Human Intelligence(以下、WHI)も同様の壁に突き当たったという。

株式会社Works Human Intelligence Product Div.Advanced Technology Dept.N-GEAR Grp. 寺尾 拓氏
株式会社Works Human Intelligence Product Div. Advanced Technology Dept. N-GEAR Grp. 寺尾 拓氏

 導入は4段階のステップで実施された。まず企画フェーズで予算確保とAzure OpenAI Serviceの契約を行い、次にPoC段階で2週間でAIチャット機能を実装し40名の新卒エンジニアで試験運用を行った。その後、200名規模でのトライアルを実施。活用効果の検証と利用ガイドラインの策定を進め、最終的に全社2,000名規模での申請制導入が実現している。

生成AIの全社導入プロジェクト

 社内における生成AIの活用の基盤となっているのが、「会社の中の知恵が集まる場所」として名付けられた「WeiseHub」だ。Azure OpenAI Serviceをベースに、生成AIモデルとしてGPT-4oやClaude 3.5を採用し、ナレッジベースにはAzure AI Search、認証基盤にはMicrosoft IDを使用している。ユーザーはWebアプリを通じてこれらのサービスにアクセスし、アクセスログは分析ワークスペースで管理される。これにより、セキュアで効率的なAI基盤を実現している。

 「WeiseHub」で提供している主要機能として、寺尾氏はまず「ナレッジ検索機能」をあげる。膨大な社内文書をベクトル検索技術で分析し、必要な情報を効率的に探し出すというもので、いわゆる「RAG(検索拡張生成)」を実現している。これを活用して製品マニュアルやFAQの情報などに素早くアクセスし、製品サポートや新人若手の製品理解に役立てている。またSlackの長いスレッドの内容をAIが自動要約して掲出するという「Slack要約機能」も有しており、必要に応じて人為的な修正指示もできるため精度の高い要約がかなう。これらの機能により、情報アクセスの効率化と意思決定の迅速化を実現している。

 気になるセキュリティとプライバシーについては、情報流出対策としてAzure OpenAI Service / Amazon Bedrockを利用し、対話データがAIの学習に使われないように流出防止の仕組みを導入。また不正利用の防止のために、会話ログの保管やユーザー単位での利用のほか、トークン数のモニタリング、コンテンツフィルターの設定などによって一定の利用制限を設けている。利用ガイドラインでは、顧客データや個人情報の入力、人を評価する目的での利用など、禁止事項を明示している。

生成AI活用の全社的な浸透を目指し、4段階による普及活動を実施

 スムーズな導入がかなったように見えるが、生成AIは導入すれば必ずしも普及するとは限らない。寺尾氏は「導入と普及は全く異なる課題。技術を導入しても、組織全体に定着するまでにはさらなる取り組みが必要だった」と語る。

 実際、基盤導入4か月後のAIの利用率は、開発部門で7割程度だったにも関わらず、フロント部門では2割程度と大変低かった。さらに使われ方を分析したところ、開発部門ではコーディングなどのコア領域で活用が進んでいたのに対し、フロント部門では文章の推敲や壁打ちなど個人的かつ限定的な活用にとどまっていた。そこで、フロント部門への生成AIの普及・活用を推進するため、さまざまな施策を行なった。寺尾氏は「4段階のステップが効果的だった」と振り返る。

AI普及のステップと期待効果

 第一ステップとしては「AIに触って慣れる」ことを重視し、トップダウンでのアカウント取得・利用促進や入社時研修などを実施。「よくわからない」「忙しくて覚えられない」など、新しい技術に対する心理的ハードルを外すことに有効だった。結果、多くの社員が気軽に生成AIを触るようになった。

 次に「業務への活用イメージができない」という層に対して「特定のユースケースでの活用」を紹介し、ボトムアップでの利用促進を実施した。具体的には、全社イベントや、部署内でのワークショップなどを実施。これにより生成AIの可能性を業務に生かす具体的なイメージを持てるようになり、活用の幅を広げることができた。

 ただ、実際に業務に生成AIを使いだすと、今度はAIの精度の低さやハルシネーションが気になりだす。そこで、「非コア業務の生成AI委託」として、業務の段階的な自動化を実施した。業務をステップに分解し、その中で、習熟度テストやFAQ作成業務など、AIに適した部分から活用することを推奨した。なお、このときにはマニュアルや資料などから生成AIに多くの候補を出させてから、人が適切なものを選ぶという"ハイブリッドなアプローチ"を採用している。

 また、「人事の問い合わせ回答にAIを活用する」という事例においては、ハルシネーションのリスクを回避するため、まずは生成AIに情報の信頼度を自己評価させ、「自信がない」という回答の場合は改めて人事担当者に確認することをルールとした。

 そして「コア業務での生成AI活用」においては、「生成AIとのシームレスなコンテキストの共有」が課題だった。基本的に生成AIはインターネット上の情報をベースに学習しており、社内のクローズドな知識は反映されていない。そのため生成AIとの壁打ちの際には、業務についてゼロから生成AIに説明する必要があった。そこで利用状況を分析し、ヘビーユーザーへのインタビューから実践的な活用アイデアを探った。実際には、インタビューからの仮説をもとに各部署での業務知識をマークダウンして整備するという活動を推進。この取り組みにより、生成AIと人間がより効果的に共創できる環境が出来上がりつつあるという。

 これらの取り組みの結果、生成AIのフロント部門への普及は、2024年2月から12月までの10か月で2割から4割へと増加し、幅広い分野で生成AIが活用されるようになってきている。また、部門ユーザーの反応も、「『WeiseHub』のコード作成支援でGoogle Colabを使ったデータ分析ができた」(人事)「上長から勧められて『WeiseHub』を使うようになったが便利さを実感している」(営業)など前向きな声が増えたという。

全社導入から14か月、フロント部門の利用率が2割から4割に増加

 施策を振り返り、寺尾氏は「社内に生成AIを導入しただけでは、開発部門以外には浸透しない。新しい技術に対するハードル、具体的な業務活用イメージが湧かない、精度が低い、業務知識を知らないなどのさまざまな問題がある。それに対する改善策として、トップダウンとボトムアップによる利用促進や、ユーザーヒアリングに基づくナレッジの整備など、継続的な取り組みが必要」と繰り返して強調した。

AWS Skill Builderの活用を広げるため、イベントと勉強会を実施

 生成AIのように、エンジニアのスキルを向上させるテクノロジーを浸透させ、組織の力としていくためには、メンバ−自身が自主的に学んでいく文化を作ることが重要となる。そこで、次は「学び続ける文化の醸成」を目的とした、AWS Skill Builder導入の取り組みについて小島杏水氏が紹介した。

株式会社Works Human Intelligence Product Div.SRE Dept.Platform Grp. 小島 杏水氏
株式会社Works Human Intelligence Product Div. SRE Dept. Platform Grp. 小島 杏水氏

 小島氏は2022年に新卒入社後、「突出したAWSの活動実績がある若手エンジニア」を表彰するプログラム「2024 Japan AWS Jr. Champions」に入社2年目で選出された経験を持つ。現在は、約540万人(※)の人事データを管理する同社製品「COMPANY」のインフラ保守を担当しながら、社内のAWS Skill Builderの普及活動を行なっている。

 AWS Skill Builderは、AWSをオンラインで学ぶためのプラットフォームであり、さまざまなコースが選べ、600を超えるデジタルトレーニングが無料で受講できる。個人および団体向けのサブスクリプションサービスが用意されており、契約すれば、自前のAWSアカウントなしでサービスに触れるハンズオンコンテンツ「Builder Labs」や、社内でイベント開催ができる「AWS JAM」、AWS認定公式模擬試験など、さまざまな追加コンテンツが利用可能になる。

 しかし、小島氏は「AWS Skill Builderのライセンスを、渡しっぱなし、もらいっぱなしになってはいないか」と語りかける。たしかにAWS Skill Builderも含め、会社が用意したツールや環境が上手く利用できていないケースは決して少なくない。

 小島は、こうした状況を回避するために、社内で2つの取り組みを行なっている。1つは月1回の「社内JAMイベント」の開催、もう1つは定期的な「BuilderLab勉強会」の実施だ。それらによってAWS技術への関心を高め、スキル&知識を向上させることで、トラブルシューティングの速度向上や新サービスへの対応力の強化を図っている。当然ながらAWS関連の開発に挑戦する機会も増えたという。

 まず「JAMイベント」では1時間半で5〜6問の問題を出題し、チームで解答を競うスタイルで行なわれる。リモートワーク中心の業務環境に合わせてオンラインで開催し、最後は順位をつけて表彰するまでがワンセットだ。また「BuilderLab勉強会」ではチームごとにハンズオン形式で学習を進め、学習した内容をGoogleスプレッドシートで管理し、メンバーや運営が把握できるようになっている。開催内容は、資格のコンテンツの視聴やJAMイベントの復習に当てるなど、チームごとに選定が可能だ。

業務内容1:JAMイベント
業務内容2:BuilderLab勉強会

(※)2024年12月末時点の契約法人におけるCOMPANY 人事の契約ライセンス数合計

AWS Skill Builder勉強会の3つのマンネリを打破する運営の工夫

 50名分のAWS Skill Builderライセンスは1年単位の契約で、かつライセンスを付け替えられる人数に制限がある。そのため、熱意のある少人数の勉強とは異なり、同じメンバー50人に向けて1年間、運営側でモチベートする必要があった。

 その中で、メンバーをモチベートしていく上で3つのマンネリ化、「メンバーのマンネリ化」「内容のマンネリ化」「負け続きのマンネリ化」の課題に直面した。まず、「メンバーのマンネリ化」に対しては、当初はチームメンバーの入れ替えを実施。現在は、コミュニケーションの取りやすさと予定調整の容易さから、同じ部門でのチーム編成を採用しているものの、異なる部門の方が「役職を忘れて取り組めた」というマネジャークラスの声もあり、さらなる改善の余地があると考えているという。

解決策1:メンバーのマンネリ化解消

 2つ目の「内容のマンネリ化」では新鮮味が薄れ、参加人数が減る課題があった。AIやセキュリティなど特定テーマを取り上げたり、より難度の高い問題を出す2時間の特別回を設けたりと工夫した。そして、業務でAWSを使うレベルによっていつも順位が固定されてしまうなどの「負け続きのマンネリ化」は、解説会を開催してレベルの底上げを図ることで解消しようとしている。なお、その際には一人ひとりに環境を渡して、解説を聞きながら手を動かしてもらうことで、しっかりと理解してもらうことを意識している。

解決策2:内容のマンネリ化解消
解決策3:負け続きのマンネリ化解消

 まもなく活動2年目を迎え、小島氏は「1年目は、トライアルエラーで多くの施策を提案・実行する試行錯誤の期間だった」と振り返る。AWSの協力を仰ぎながら、他社の活動や推奨される使い方などを教えてもらい、活動に反映させてきた。

 そして2年目は、成功した施策の安定的な実行に注力し、アンケートや定例ミーティングを通じて施策を取捨選択し、改善を重ねる年になったという。それを大きく後押ししたのが、「勉強が当たり前」というWHIの文化だ。WHIでは、資格勉強会や技術書の輪読会など、さらにさまざまな勉強会が毎週のように行われ、AWS Skill Builderの活動も自然と受け入れられた。そしてもう1つ、若手のチャレンジが推奨される文化も大きい。実際、小島氏は入社2年目よりAWS Skill Builderの勉強会を運営しており、自律的な学びの文化が浸透していることを伺わせる。

 小島氏は、「自分発信で多くの施策を提案し、改善活動に貢献できたことに満足している」と胸を張る。そして、今後3年目について「AWS Skill Builderの活動を楽しく、来年も続けていきたい。そして、まだできてない対面JAMイベントの開催ができれば」と意欲を見せた。

 そして、活動全体のまとめとして、生成AIもAWS Skill Builderも単なる導入で終わらせず、実際の活用と浸透が重要であることを強調。「周囲を巻き込みながらアクションを起こし、改善サイクルを回していくことが成功のカギだと思う」と語った。この学びは開発業務や他のタスクにも応用可能で、新しい取り組みの定着に向けた改善サイクルの重要性を示唆しているともいえる。興味のある方は、WHIの施策を参考に、トライしてみてはいかがだろうか。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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