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Developers Summit 2025 セッションレポート

プロダクトの価値を高めるためにコーディング以外にできることは?コミュニケーション4つの工夫

【13-B-7】プロダクトの価値を高めるためにコーディング以外にできること~共通言語でつくる異職種コミュニケーション~

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 「言っていることが伝わらない」「忙しそうで話しかけづらい」――そんな“すれ違い”が、チーム開発の足を引っ張ってはいないだろうか。本セッションではLegalOn Technologiesの浅野卓也氏が、専門用語によるミスコミュニケーションの事例や、職種間の情報格差を埋めるために開催した勉強会、対話の頻度を高める取り組みなどを紹介。実践に基づいた具体的な工夫から、異職種との連携をスムーズにするためのヒントを得よう。

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コミュニケーションが失敗する2つの要因

 本セッションに登壇したのは、LegalOn Technologiesで検索・推薦領域のリードエンジニアを務める浅野卓也氏。法務相談や契約書の審査・押印・管理など、法務体制の構築をAIで支援するリーガルテック「LegalOn Cloud」の開発において、検索・推薦機能を中心に技術面をリードしている。

株式会社LegalOn Technologies LegalOn Cloud リードエンジニア(検索・推薦)浅野 卓也氏
株式会社LegalOn Technologies LegalOn Cloud リードエンジニア(検索・推薦)浅野 卓也氏

 LegalOn Technologiesは、いわゆるリーガルテックのスタートアップだ。従業員数はグローバルで約600人、うちエンジニアは200人超。グローバルでは7000社以上(2025年3月時点)がプロダクトを導入しており、今も拡大を続けている。特徴的なのは、開発専任の弁護士や元法務出身の開発者が多数在籍している点であり、専門性の高い領域で職種横断的な開発が日常的に行われていることだ。

 浅野氏がこの日取り上げたのは、「プロダクト開発におけるコミュニケーション」の課題である。複数のチームが関わる横断的なプロジェクトでは、関係者ごとに背景知識や用語の理解に差がある。そのため、エンジニアからは「技術的な内容を理解してもらえない」、非エンジニアからは「エンジニアの話がまったくわからない」といった声が上がるのも無理はない。

 「弊社では、エンジニアだけでなく、プロダクトマネージャーやカスタマーサポート、さらには弁護士の方々ともコミュニケーションを取りながら開発を進めています。職種が異なれば当然コンテキストも異なり、伝えたいことがうまく伝わらないこともある」と浅野氏は話す。

チームをまたぐ開発現場で直面する、よくある“すれ違い”の数々
チームをまたぐ開発現場で直面する、よくある“すれ違い”の数々

 こうした状況を放置すれば、情報の非対称性が拡大し、組織のサイロ化や生産性の低下、さらにはプロジェクトの失敗を招くおそれがある。

 「人間同士が一緒に仕事をする以上、コミュニケーションの良し悪しはプロジェクトの成果を左右する大きな要因です」と浅野氏。だからこそ、プロダクト開発における“共通言語”の形成は、決して無視できないテーマなのだ。

 浅野氏は、コミュニケーションが失敗する要因を大きく二つに分けて説明する。

 一つ目は「ミスコミュニケーション」。これは、お互いの認識や情報量の違いによって、伝えたいことが正しく伝わらないケースを指す。いわゆる「すれ違い」だ。

 たとえば、検索エンジニアが非エンジニアに対して、「検索結果は基本、BM25でスコアリングしていますが、NDCGを向上させるためにベクトル埋め込みをANNしてからRRFしてリランキングしますね」(※)と話したとする。この発言の意味がすぐに理解できる人は、おそらく限られているだろう。こうした“伝わらない会話”が、ミスコミュニケーションの典型である。

 ※「最初はBM25(キーワードベースのランキングアルゴリズムのひとつ)で検索結果を出すが、検索の精度(NDCG:検索の精度を計測するための評価指標のひとつ)をより上げるために、意味ベースの近さ(ベクトル埋め込み)でも検索して、それを複数の手法で統合(RRF)し、最終的な順位を決める」という意味。

逆に、エンジニアが理解できない例として「ビジネス用語まみれのセリフ」が登場。「ChatGPTに書いてもらった」とユーモアを交えて紹介された
逆に、エンジニアが理解できない例として「ビジネス用語まみれのセリフ」が登場。「ChatGPTに書いてもらった」とユーモアを交えて紹介された

 もう一つの要因が「ディスコミュニケーション」だ。これは、そもそもコミュニケーションが発生していない状態を指す。「あのチームが何をやっているのか分からない」「忙しそうだから声をかけづらい」といった理由で、必要なやりとりがなされない――こうした事態は、プロジェクトの停滞や意思疎通の断絶を引き起こす。

 浅野氏はこうした事例を挙げながら、「必要なコミュニケーションが行われていないというのは、実はかなり危険な状態」と警鐘を鳴らす。

 伝え方に問題がある「ミスコミュニケーション」と、そもそも伝える行為が行われていない「ディスコミュニケーション」。その双方が、プロダクト開発における大きなリスクになるというわけだ。

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コミュニケーションを「モデル化」して解き明かす

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この記事の著者

夏野 かおる(ナツノ カオル)

 博士。本業は研究者。副業で編集プロダクションを経営する。BtoB領域を中心に、多数の企業案件を手がける。専門はテクノロジー全般で、デザイン、サイバーセキュリティ、組織論、ドローンなどに強みを持つ。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

川又 眞(カワマタ シン)

インタビュー、ポートレート、商品撮影写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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