大規模システムへのAI適用は難しい? 7割完成で運用へ回す「VibeOpsメソッド」の全貌
エンタープライズ向けシステムへのバイブコーディング適用を可能にするため、トランスコスモス・デジタル・テクノロジーが確立したのが「VibeOpsメソッド」だ。所氏は「基本的には、世間で言われるバイブコーディングの手法を忠実に守りつつ、そこに我々なりの考え方を持ち込んでいる」と説明した。
従来のシステム開発は、ヒアリング・要件定義、基本設計、詳細設計、実装、単体テスト、結合テスト、運用保守という7工程で構成される。VibeOpsメソッドでは、これを「ヒアリング・要件定義・設計・計画」「実装・テスト」「結合テスト」「運用保守」の4つに圧縮した。
各工程では使用するツールとインプット内容を明確に定義している。要件定義・設計・計画の工程では、AWSの「Kiro Specs」やGitHub Copilotの「Agent Mode」を使用し、機能要件、非機能要件、アーキテクチャ、環境設定に加え、コーディングルールやデザインポリシーもインプットしていく。
開発・テスト工程では「AIに一度に全てを作らせないこと」を重要視している。「AIに『全部作って』と指示すると、ブラックボックス化したソースコードが出来上がってしまう」と所氏は指摘した。タスクを細かく分割してAIに作業を許可し、生成されたソースコードを人間がレビューする。「仕様を決め、細かく生成させ、人間がレビューする」というサイクルを回す。
VibeOpsメソッドの最大の特徴は、開発途中での考え方の切り替えにある。所氏は「開発の7~8割程度までは新規開発として進める。ここまでは完全に仕様駆動開発だ」と説明した。その後は保守運用に移る。
すでにリリースされたサービスで不具合が発生したときと同様に、新規開発したプログラムで発生している問題だけを見据えて修正する。不具合や機能改修の対象箇所をIssue(課題)として登録し、そのIssueに対してのみソースコードをAIに生成させ、精度を高めていく。こうした工程によってエンタープライズ向けシステムでもAIと協働できる。「余計な工数をかけず、途中で頓挫することもない」と所氏は強調した。
しかし、このVibeOpsメソッドには別の課題も存在する。従来の開発では、上流工程に経験豊富なエンジニアを配置し、詳細設計には中堅エンジニア、実装やテストにはジュニアエンジニアをアサインできた。ところがバイブコーディングでは全工程が圧縮され、要件定義からプロンプティング、コードレビュー、テストまで一気に実施する。よって「開発そのものが、上流工程のスキルを持つエンジニアにしか扱えない」と所氏は指摘した。
だが、上流工程のエンジニアだけをアサインするのは現実的でない。即座に採用することも、その工程の担当者だけを集めることも困難である。だからこそトランスコスモス・デジタル・テクノロジーは、経験の浅いエンジニアでも上流工程ができる仕組みの構築に取り組んだ。

