視点を「相手」から「問題」へ切り替えるための3つのポイント
信頼関係をつくるための好循環は、どのようにつくっていけばよいのか。鳥井氏は、3つの具体策を示す。
1つ目の観点が、「共通の前提を揃える」ことだ。鳥井氏は、「すれ違いの多くは感情ではなく、情報不足から生まれる」と指摘する。典型例としては「このメソッドを使ったのはなぜ?」というレビューコメントだ。書き手にとっては純粋な質問でも、受け手には否定や詰問として受け取られかねない。「これは質問であること」や「なぜ気になったのか」を一言添えるだけで、こうした誤解は防げる。
同様の問題はPull Request(PR)でも頻発する。Issueへのリンクと実装だけが貼られたPRでは、レビュアーは実装意図や思考過程をすべてコードから読み取らなければならない。レビューポイントが示されていない巨大なPRも同様だ。どこを重点的に見ればよいのか分からず、レビューは消耗戦になりやすい。
ここで重要なのは、「自分が知っていることは相手も知っているはずだ」という無意識の前提を疑うことだ。相手は自分の思考過程を知らない。だからこそ、背景や意図を言語化して渡す必要がある。説明が抜けがちであれば、PRテンプレートなどの仕組みで補えばよい。共通の前提を揃える工夫は、相手に余計な負担をかけないための配慮にほかならない。
2つ目の観点が、「ふるまいの習慣化」である。基本はシンプルだ。「怖い言葉を使わない」「いきなり否定から入らない」「まず相手の意図や工夫を受け止める」「その上で改善点を伝える」。
たとえば、「これはダメ」と切り出すのではなく、「シンプルにしたいという意図は理解できます。その上で〜」と書く。ほんの一文の順序を変えるだけで、受け手の印象は大きく変わる。鳥井氏は「こうした書き方は、習慣として身につけることが重要だ」と語る。
一方で、「気を遣いすぎること」への注意も促す。遠回しすぎる表現や過剰に長い文章は、かえって相手を信頼していないサインになりかねないためだ。
3つ目の観点が、「ルールを整える」ことだ。インデントや改行といった細部を、毎回人力で指摘し合うのは非効率である。指摘する側も受ける側も疲弊し、レビューの本質から意識が逸れていく。そもそもが不要なテキストコミュニケーションなら、それ自体を減らす工夫が求められる。
これらの実践を積み重ねた先に目指すのが、「私たちvs問題」という構図だ。レビュアーとレビュイーが向かい合うと、「否定されたくない」「できる人だと思われたい」といった感情が前に出やすく、コミュニケーションは歪みやすい。視点を「相手」ではなく「解決すべき問題」に向けることで、こうした心理的ノイズは抑えられる。
もっとも、テクニックを知るだけでは不十分だ。重要なのは、それをチームの文化にしていくことにある。
そのために鳥井氏が挙げたのが、「明文化」「共有」「育て続ける」の3点だ。暗黙の了解を言葉にし、良いふるまいを共有し、変化を前提に更新し続ける。このプロセスそのものが、チーム文化を形作っていく。
