Spec-firstを取り入れた「新しいPlanモード」の登場も
ここまでPlanモードと仕様駆動開発についての説明を読んで、仕様駆動開発という手段を取らずともClaude CodeやGitHub CopilotのPlanモードでSpec-firstと同等のワークフローが実現できている、と感じた方もいるでしょう。
Planモードは本来「AIエージェントの暴走を防ぐ」目的で、実装フェーズを制御するブレーキの役割を担っていましたが、2026年3月時点では仕様ファイルの作成やタスクリストへの分解まで手がける実装も登場しています。PlanモードはSpec-firstのワークフローを取り入れて改善された結果、仕様駆動開発との違いが見えづらくなっています。
新しいPlanモードと仕様駆動開発の違いは、代表的な疑問②で挙げた「作成された仕様書をどのように扱うか」という一点に絞られてきます。
仕様はあればあるほど好ましい?
仕様駆動開発を取り入れるとき、結果として仕様が「詳細な指示」の同義語に思えることもあります。仕様を詳細に書けば書くほど、Coding Agentの出力する成果物の品質は向上するのでしょうか。
Coding Agentの文脈では、そう単純ではありません。AIエージェントに与えるトークン数が膨大になると性能が劣化する「Context Rot」(コンテキストの腐敗)、先頭や末尾に比べ中間に配置された情報の認識精度が大幅に低下する「Lost in the Middle」など、プロンプトが過密になればなるほど、Coding Agentはコンテキストに埋もれ、本来重要である情報を見逃した結果、性能を発揮できないことがあります。
一方で、Agentic Codingにおける仕様は品質保証の手段の一つに過ぎないのも事実です。テスト・リンティング・CI/CDといった決定論的なゲートと組み合わせることで、仕様のみに頼らずとも一定の品質を担保できます。仕様に全てを書き尽くそうとするよりも、決定論的なガードレールに確認を委ねたり、満たすべき要件をテストするプロパティベーステストを採用するなどのアプローチを併用し、仕様の文章量のバランスを取るのも戦略の一つでしょう。
仕様駆動開発はどこへ向かう?
ここまで語ってきた通り、「仕様駆動開発」という用語はまだ明確に定義されておらず、採用する粒度やスタイルをチームで認識を合わせる必要があります。また、仕様駆動開発のうちSpec-firstのスタイルはPlanモードに合流し、Coding Agentの多くの実装に含まれる当たり前のものになりつつあります。
この状況下で新たに仕様駆動開発を採用する場合、仕様を継続的にメンテナンスするSpec-anchoredや、仕様を正とするSpec-as-sourceの世界へ足を踏み込むことになるでしょう。適切な情報量のマネジメント、つまりコンテキストエンジニアリングを進めていく中で「完全な仕様」を作り上げ、維持し続けることは簡単なことではありません。
仕様駆動開発がより洗練されていく未来もあり得る一方で、Spec-firstを踏襲しつつ「仕様よりも成果物の検証を手厚くする」とする考え方も注目され始めています。いずれにしても本稿が、「仕様駆動開発」という概念との向き合い方を改めて考えるきっかけになれば幸いです。
