「返事待ち」をゼロに! スピードを重視するTwo-Way-Doorの決断
川口氏がチームを加速させるために実践している1つ目のアクションが、「即レスで信頼を築く! スピード判断」である。ここで重要なのは、即レスを行うこと自体が目的ではないという点だ。メンバーが日々の作業の中で「このまま進めていいのだろうか」と迷ったとき、リーダーの返答を待つ時間はチームの停滞につながってしまう。
「メンバーの待ち時間を最小限にすることは、チームの開発スピードを最大化することにつながります」と川口氏。もちろん、その場ですぐに回答できない難しい質問もあるが、放置せずに「確認します」というリアクションのスタンプを返すだけでも、メンバーには「メッセージを見てくれている」という安心感が生まれる。これが、気軽に何でも相談できる心理的安全性の高い環境のベースとなる。実際に、川口氏は1日に約50個ものリアクションをSlack上で重ねており、こうした活発なコミュニケーションがチームの安心感を支えている。
そして徹底した即レスを支えているのが、「One-Way-Door(戻れない決定)」と「Two-Way-Door(戻れる決定)」という意思決定のフレームワークだ。川口氏は「世の中のほとんどの決断は、間違えても後からやり直すことができるTwo-Way-Doorだと考えています」と述べる。一発で完璧な正解を引き当てようと時間をかけるよりも、まずはスピードを重視して行動したほうが、結果的に正解にたどり着くまでの時間は短くなる。川口氏のチームではこの考えを徹底しており、スピード重視の決断によって万が一間違えた場合でも、すぐに元の選択肢に戻れるよう「ADR(意思決定までの経緯)」をドキュメントとして残す工夫を凝らしている。なぜその決定を下したのか、ほかの選択肢は何だったのかが可視化されているからこそ、チームは恐れることなくすばやく動き続けることができる。
即レスを継続した結果、チームには大きな変化が表れた。メンバーの待ち時間を減らせただけでなく、相談が早い段階で寄せられるようになり、認識のズレを初期段階でキャッチアップできるようになったため、開発における手戻りが大幅に減少したのだ。また「川口さんに聞けばすぐに答えてくれる」という認識の広がりによって質問するハードルも下がり、チーム内のコミュニケーションが加速していった。
さらに、このアクションは川口氏自身の成長にもつながり、「決断する力」が身に付いたという。川口氏は「とにかく毎日決断し、その結果から学んでサイクルを回すことでしか、決断する力は身に付かないと実感しました」と振り返る。
川口氏はこのセクションで持ち帰ってほしいものとして「リアクションすること」と「意思表示をすること」の2点を示した。Slackなどに通知が届いたらスタンプでもよいのですぐにリアクションする、決断に必要な拠り所とするために自身の考えをアウトプットして周囲からフィードバックをもらう。いずれのアクションもスピード感のあるチームづくりの一助となる。
相手の「嬉しい」を起点にしたコミュニケーションが、助け合いの文化を生み出す
チームのエンゲージメントを高める2つ目のアクションとして、川口氏は「相手の『嬉しい』を起点にした共感のコミュニケーション」を挙げる。メンバーの動きを観察し、良いと思った行動があればその場ですぐ本人に伝えること。次に、メンバーから相談を受けた際に同じ目線で話せるように、ふりかえりの意味を込めて日々の心の動きを日報に書き続けること。そして、自身の失敗をメンバーが繰り返さないように、仕事の中で試行錯誤した足跡を、Slackの作業スレッドにログとして残すこと。これらの「誰かのため」を思った川口氏の小さなアクションは、やがてチーム全体へと広がっていった。
川口氏が個人的に始めた「作業スレッドに試行錯誤を残す習慣」は、今やメンバー全員の習慣となり、Slackのチャンネル全体がチームの貴重なナレッジベースへと進化。誰かが困っている状況を早期に発見し、周囲の知見を持つメンバーが自然とアドバイスを送り合う「助け合う文化の種」が、日々の小さな思いやりから芽吹いた。メンバーに対する想像力を働かせ、目の前の仲間を思いやることが、巡り巡ってプロダクトを利用するユーザーへの想像力へとつながっていく。
このセクションのまとめとして、川口氏は「いいなと思った行動にリアクションする」「このIT Women Summitで『いいな』と思ったことを真似してみる」という2点を参加者に勧めた。こうした小さな一歩が、チームの文化を作る種になっていくのである。

