--今後、取り上げたい内容や、目標とするところはありますか?
米持氏: 社内からの要望が高いのは要素技術ですね。でも、社外からの意見も積極的に取り入れ、影響力が強いと思われるものは取り上げていきたいと考えています。あと、目標とは少し違うかも知れませんが、技術コミュニティのようなものを形成して行けたらと思います。特に日本はオープンソースに関して海外より遅れていると感じています。
日本の市場はコンペ色の強いベンダーが多いんですよね。アライアンスを組んで技術は共有し、性能で勝負している感じです。多分これは海外に対して生き残るための施策なんでしょうけど、ベンダー同士が手を組んでいかないと、コンペでは取り合いになって技術が死んでしまいます。また、同じオープンソースでも、RedHatやMiracleなどはGPL/GNUをベースに品質を上げて商用化するというものですが、IBMやサンはそうではなく、自社で開発したものをオープンソース化しています。このあたりの意図の違いも広く認識されるべきでしょう。
セミナーで取り上げるネタを集めるのに、実は社内Wikiや社内ブログを活用しています。IBMでは3年ほど前から社内のコミュニティソースサイトを構築していまして、社員が自由に情報を発信できるようになっています。そのため、たとえばオープンソースの標準化に関わっているような人のWikiやブログから最新情報を入手できるのです。Web 2.0を企業で実践しているため、ソリューションに活かすこともできるんですね。また、コミュニティソースサイトを利用して一社員がプロジェクトを立ち上げることもできるんです。
今後は、社内においては「新技術を持っているけど発表の場がない」という声に応えていき、社外に対しては幅広い内容でセミナーを行っていきたいと考えています。
--現在、米持さんが注目している技術は何でしょうか?
米持氏: 最近はクラウドコンピューティングに興味があります。ただ、要素技術なのか使い方なのかという問題はあります。ソーシャルネットワークにしても、使わなければ意味がありません。自主的に使う人が増えていかないと構築されていきませんよね。そのため、利用技術というか、使う人に対する教育というものも必要になってくると思います。これはクラウドコンピューティングも、そしてSaaSも同様です。
SaaSは特に仮想化とかぶる部分が多いですから、SaaSとしての使い方によるメリットとデメリットを明確にしていく必要があります。技術があるだけでは意味がないんですね。Web 2.0は同様の傾向が特に顕著です。Wikiやブログ、マッシュアップされる要素技術にしても、使われて初めて意味があります。また、コンシューマ向けか企業向けかによっても変わってきます。このあたりのことは誰もが悩んでいて、ノウハウを蓄積している状況です。
--最後に、読者へのメッセージをお願いします。
米持氏: 「渋谷テクニカルナイト」には、製品化される前の技術や、ラボから出たばかりの技術といった一番新しいものがあります。技術の観点から、製品ではないオープンソースへアプローチできるため、自分で付加価値を見つけていくことで新しいビジネスのチャンスにもなります。そして、これはすべて日本発の技術なのです。
日本は、家電や自動車、建築などの技術は世界標準になるほど高い水準にありますが、プログラムに限ってはそうではありません。組み込み系ががんばっている程度です。これは、日本の場合は誰かが作ったものをより安く作り替えていくという歴史のせいかもしれません。
日本は複数のものを擦り合わせてひとつのものを作ることが得意でした。これはソフトウェアでも同様のはずです。しかし、ソフトウェアはバラバラに作られています。だからSOAも進まないのでしょう。英語アレルギーも問題です。よく「日本語化しないと使いづらい」という話を聞きますが、日本語化すること自体が問題なのです。ぜひ英語をマスターして、ワールドワイドに展開して欲しいと思います。現状を打破して開発者に元気になってもらい、産業を活性化させてください。