ソーシャルネットワークサービス(SNS)上で動作するアプリケーション(ソーシャルアプリ)の共通APIを提供する「OpenSocial」。日本でも昨年の11月にmixiが賛同を表明する等、注目が高まってきている。また、来月開催予定のデブサミ2009(主催:翔泳社)では、Googleの全面協力の下、OpenSocialの「Hackathon」が行われる予定だ。
CodeZineではOpenSocialのキーマン達に、「OpenSocial」および「Hackathon」に共通するという、開発者が体験すべき「楽しいデベロッパーカルチャー」について取材した。
OpenSocialは誰もが得するエコシステム
OpenSocialは、Googleが開発し2007年11月1日に発表したソーシャルアプリのための共有API群。従来、SNS向けのアプリケーションはSNS運営者(以下、コンテナベンダー)ごとに仕様が異なるため、個別に開発する必要があったが、OpenSocialに対応したSNS間であれば、一度作成したアプリケーションを別のSNSで簡単に動作させることができる。
グーグル株式会社でOpenSocialを担当する石原直樹氏は、OpenSocialの近況について「OpenSocialはこの1年で予想以上に成長しました。海外では、MySpace、Hi5、orkut、Friendster、Linkedinといった主要なSNSが既に対応しており、世界のかなりの地域をカバーしています。現在、OpenSocialのアプリーションをインストールしている人は世界で延べ3億1500万人、アプリケーション数は7,500以上、コンテナベンダーは20社以上にも及びます。日本でもmixiを初め、サポートを表明するベンダーは増えてきており、ここ数か月から1年の間は、日本でOpenSocialが盛り上がる前夜祭的な時期になるでしょう」と語る。
石原氏はOpenSocialの魅力について、エンドユーザー・開発者・コンテナベンダーの誰もが得をするエコシステムである点を指摘した。
従来のソーシャルアプリでは、SNSごとに独自のAPIを覚える必要があり、開発効率の面で大きな問題があった。OpenSocialでは、一度共通のAPIを覚えれば、OpenSocialをサポートしているどのSNS向けにもアプリケーションを作れるようになる。労力が減る分、クリエイティブなことに注力でき、よりリッチなコンテンツが作れるようになる。結果としてSNSの魅力が高まり利用者が増える、という構図だ。
例えばBuddyPoke!というサイトでは、OpenSocialを使って、6つのSNS向けにガジェットを提供しており、人気を博している。友人に、3Dキャラクターの動き(ハグやハイタッチ等)で自分の気分を伝えるアプリケーションで、テキストに比べ、送り手も受け手も気軽にメッセージをやり取りしやすい。
なお石原氏は、成功しているアプリケーションの傾向として「シンプルさ」「発想のよさ」「友達と簡単なやり取りを行う」といった特徴がある、と分析する。
閉ざされた環境が逆に多くのユーザーを生み出す
日本におけるOpenSocialコミュニティ「OpenSocial-Japan」の運営者の一人、田中洋一郎氏は、開発者の立場で感じるOpenSocialの一番のメリットについて、「ユーザーの付きやすさ」を挙げた。
外部に開かれていることから、一見、通常のWebアプリケーションの方がソーシャルアプリに比べユーザー層が多く見えがちだ。しかし、ソーシャルアプリは不特定多数ではなく、SNS会員という特定多数が使うという点が重要となる。SNSが持つ人と人とのつながりは口コミになり、自然と広がっていく土壌がある。通常のWebアプリケーションではアプリケーションを普及させるために、自分でPRしたり、会員数を増やしたりといった努力をする必要があるが、ソーシャルアプリではSNS側がその役割を担ってくれる。より多くのユーザーに使ってもらえることは、開発のモチベーションにも繋がる。
フィードバックも通常、コンテナベンダーの審査に通って公開された際に提供される掲示板や、ランキング、インストール/アンインストール数、誰が誰を紹介したか、といった情報から手軽に取得することもできることも、開発者として嬉しい。
OpenSocialが秘める可能性
OpenSocialの世界に踏み込んだきっかけとして、OpenSocial-Japanの運営者の一人、白石俊平氏は「ソーシャルなデータにアクセスできることで、今までに書いたことがないアプリケーションを作れる可能性があることに魅力を感じたから」という。
マネタイゼーションについても、いくつか試みられているようで、今のところ宣伝用に提供されているスペースに広告を掲載したり、コンテンツベンダーが自分達のサイトにトラフィックを誘導する集客装置として活用したり、といったケースが多いようだ。
白石氏・田中氏ともに、「基本、iGoogleのガジェットと変わらないことや無料で使えるアプリケーションが爆発的に増えてしまったため、マーケットプレースを用意して課金モデルを適用するノリではない」と指摘するが、石原氏は「OpenSocialは非常にオープンなプラットフォームなので、誰かがうまいビジネスモデルを作れば、他もすぐにまねができる。iGoogleのガジェットはコンテナベンダーが一つに限られていたが、OpenSocialは世界中のSNSが対象。その点にうまみがある」とも述べた。
石原氏は、OpenSocialは既に爆発的に普及し始めているが、まだ初期段階だと考えている。開発者にどうしたらガジェットを作りたくなるかと尋ねたところ、マネタイズやトラフィックの獲得という実利的な回答もあったが、意外と多かったのが、新しいテクノロジーなので触ってみたいという「好奇心」や、自作アプリケーションが多くの人に使われランキングに掲載されるといった「名声(fame)」に関するものだったという。BuddyPoke!のようにシンプルでも大当たりする可能性があるため、趣味にも実益にもなりうるのがOpenSocialと言えそうだ。