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アーキテクチャの情報を伝えるための10のヒント

技術的な情報を関係者に効果的に伝える方法とは

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 ソフトウェアアーキテクトとして成功するには、技術的な情報を関係者に効果的に伝える方法を身につける必要があります。この記事では、アーキテクチャ情報を効果的に提示するための10のヒントについてお話しします。

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はじめに

 何年か前、私は同僚と一緒に、アーキテクチャの計画をある重役に説明するために使うPowerPointプレゼンテーションを作成しました。何枚ものスライドを含んだ、かなり印象的な仕上がりの(...とそのときは思っていた)プレゼンテーションだったのですが、ご想像のとおり、いざ会議になると、スライド3枚を見てもらうのが精一杯で、こちらのメッセージやその妥当性を効果的に伝えることなどできませんでした。

 幸い、我々にはもう一度チャンスが与えられました。そこで、今度は同じ間違いを繰り返すまいと心に決めました。80ページに及ぶ資料で情報を伝えようとするのではなく、この重役に関係のある情報を抜き出し、全体的な計画プロセスと、この重役が担当する自動化製品群に関する例とを組み合わせて、1ページの資料にまとめました。このリーガルサイズ1枚のシンプルな資料を使って、もっと有意義な会話ができるようにする、という戦略を採用したのです。

 今度はうまくいきました。重役は1ページの資料に興味を引かれ、会話を積極的にリードし、全体的なアプローチや、関連する詳細事項、計画の重要ポイントを理解してくれました。私は、自分が伝えたかった情報をすべて1時間かそこらの会議で伝えることができました。さらに、全体的なコンテキストを踏まえて、例の80ページの資料から補足情報を提示することさえできました。

 私はうまくいく方法をたまたま見つけることができましたが、なぜその方法がうまくいったのかについては明確に理解していませんでした。その理由を教えてくれたのは、数か月前に参加した、データと情報の提示に関するEdward Tufteのセミナーです。Tufteは長年の実証に基づく、データと情報の効果的な提示に関する分析的設計の原則とパターンについて語り、その話に私は非常な感銘を受けました。

 皆さんにも、私と同じような経験があるはずです。うまくいった経験もあれば、巻き戻しボタンを押して最初からやり直したいような経験もあるかもしれません。この記事では、Tufteや他の人から(ときには苦労して)教わった、アーキテクチャ情報を効果的に提示するための10のヒントについてお話しします。これらのヒントが、私の場合と同じように、皆さんがより良いソフトウェアアーキテクトになるための手助けになれば幸いです。

 これから説明する10のヒントとは次のようなものです。

  1. 聞き手を知る
  2. 方法を慎重に選択する
  3. コンテキストを明確にする
  4. 情報の解像度を高める
  5. 普遍的な枠組みを使用してデータを示す
  6. 小さな並列を使用する
  7. 内容が何より重要であることを理解する
  8. 業界で標準になっている表記技法を利用する
  9. 関連のある事実と図を組み込む
  10. 各論、総論、各論のパターンに従う

1. 聞き手を知る

 アーキテクチャ情報を効果的に伝えるための1番目のヒントは、聞き手を知ることです。

 計画立案の説明で重役に会ったとき、私は彼が非常に高い知性を持ち、時間の余裕はあまりなく、時々短気になることがある、という点に気付きました。また、自分が担当する自動化製品群の客観的な評価に非常に関心があり、欠点とリスクに対処するためのロードマップを求めていることも分かりました。簡潔な1ページの資料が、彼の心に引っ掛かっている疑問に答え、彼の知性を刺激し、自分の貴重な時間を自分の思いどおりに使うために会話をリードしようという意欲を持たせることになったのです。

 プレゼンテーションをするときにまず必要なのは、「それで私にどういうメリットがあるのか(What's In It For Me?)」(=WIIFM)という質問を、聞き手の立場から問いかけることです。これにより、聞き手の関心と共感を最大限に集める方法でメッセージを伝えることが可能になります。

 WIIFMは、私がITプロフェッショナル向けの記事を書くときにまず行うことでもあります。私の記事をよく読んでいる読者ならお気付きかもしれませんが、私はいつも、記事の導入部分で、その記事を読んでいるアーキテクト、開発者、プロジェクトマネージャに何らかの関係があると思われる質問を提示しています。読者に質問を投げかけた後で、読者の思考プロセスを引きつける話に進みます。これは、その質問が自分に関係のあるものなら続きを読むという流れを期待しているからです。ほとんどのITプロフェッショナルは時間に追われているので、情報はできる限り読みやすく、理解しやすいものにしたいというのが私の考えです。私が目指しているのは、読者が記事を読み終わってすぐに適用でき、記事を読んで時間を無駄にしたと思わないような、実用的な情報を提供することです。

2. 方法を慎重に選択する

 2番目のヒントは、アーキテクチャ情報を聞き手に最も効果的に伝える方法を慎重に選択することです。

 メッセージを伝達するための媒体は多種多様です。情報を伝達する最善の方法は状況に応じて異なり、例えば、ホワイトボードの使用、ホワイトペーパーの作成、スライドの作成、口頭での説明(スライドあり/なし)、または単なる会話など、さまざまな方法が考えられます。提示する情報の種類と聞き手に合わせて方法を工夫する必要があります。

 経験的には、多くの場合、ホワイトボードを使用するのが最も効果的です。ホワイトボードを使用すると、聞き手が理解しようとする情報を適度に抑制しながら提供できます。一度にたくさんの情報を見せる代わりに、図を描いて説明しながら、情報を少しずつ提示できます。聞き手からの質問に対しては、図に注釈を加えたり図を拡張したりすることで、その場で簡単に対応できます。

 短いホワイトペーパーが最善の場合もあります。ホワイトペーパーは多数の関係者のグループ内で回覧できます。個別に読んだり、小グループのミーティングや大きいグループへのプレゼンテーションに使用することもできます。また、改訂の管理や、重要な関係者の署名の受領にも使用できます。

 残念ながら、聞き手や目的、アプローチを検討せず、いきなりスライドを作り始めようとする人は少なくありません。これはまさに、「持っている道具が金槌しかないときは、すべての問題が釘に見えてくる」という状況です。もうお分かりのように、コミュニケーションの問題に適用できる手軽なツールは他にもたくさんあり、スライドは多くのツールの1つにすぎません。

 もちろん、聞き手にアーキテクチャの情報を説明するための最善の手段がスライドである場合もあります。しかし、他の方法を考えずにいきなりスライドに飛びつくのは間違いです。スライドの作成を選択した場合は、以下で示す多くの原則とパターンを使って、より効果的なスライドを作るようにしましょう。

3. コンテキストを明確にする

 3番目のヒントは、聞き手に説明する情報のコンテキストを明確にすることです。

 アーキテクチャ情報を説明する機会が与えられたときは、聞き手が関心を持っている問題領域は自分と完全に同じではないということに注意する必要があります。以前に聞き手と会ったことがあっても、会ったという事実、話し合った内容、決めたこと、約束した事後対応などを、聞き手がすぐに思い出すとは限りません。それらのことを聞き手に思い出させる必要があります。最初に会議のコンテキストを明確にしなかったために会議がうまくいかなかった、というケースを私は何度も経験しています。こういう会議は、大抵実りのない結果に終わります。私が計画立案に関して重役と2度目の会議を行ったときには、まず前回の質問の内容を思い出してもらい、彼の要求に応えられなかったことを謙虚に認めるようにしました。

 提示しようとする情報のコンテキストも明確にする必要があります。スライドを作成するときには、その資料が時間軸、業界のベンチマーク、傾向などにどう関係するのかを示すようにします。これにより、聞き手は物事を比較したり、適切な枠組みで考えたりできるようになります。

 コンテキストの明確化によく使用されるのが「概要-詳細」パターンです。最初に概要ビューを全体像として示し、これから説明する情報および詳細領域のコンテキストを提供します。会議の対象範囲、順序、そして詳細に検討する部分を聞き手にあらかじめ理解させるようにします。こうすると、聞き手は事前に全体像を把握しているので、会議やスライド、資料の中で提示される情報をよりよく消化できます。この記事の「はじめに」で挙げた10のヒントの一覧は、図こそ使用していませんが、「概要-詳細」パターンの例です。

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Jeff Ryan(Jeff Ryan)

ビジネス上の問題に対する優れたソリューションの設計と実装に25年以上携わっているエンタープライズアーキテクト。Edward Tufteの教えを学び、いつの時代にも通用する彼のデータと情報の提示に関する原則を、ソフトウェアアーキテクチャのコンテキストに適用する方法を研究している。エンタープライズアーキ...

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