モバイルファースト~世界のIBM社員の75%はモバイルワーカー
【interview with】
米IBM モバイルファースト マーケティング担当ディレクター
エド・ブリル氏
Q. なぜ今、IBMはモバイルに注力しているのか。
昨年、当社が調査したところ、世界の企業の半分以上が、Webサイトのモバイル対応やBYODポリシーの設定といったモバイル戦略を、未だとっていないことがわかった。こうした状況から、ビジネスの進め方をモバイルを中心に変革していく機会が到来したと考えている。当社が「モバイルファースト」を掲げ、推進する背景はここにある。
日本では、コンシューマー向けのモバイルが大変普及しているが、ビジネス向けでは導入の余地が大きく残っているように見える。業務の進め方を作り直す余地があるということだ。
Q. モバイルエンタープライズ実現に向けて、IBMではどのような取り組みを行っているか。
昨年12月に買収した米Fiberlinkのテクノロジーを適用し、IBM社員が使用している7万個のBYOD端末を1週間で管理できるようにした※ほか、IBM内部にソーシャルネットワーク「IBM Connections」を構築した。タブレットや携帯端末を使って世界45万人のIBM社員とつながっていられるし、自分の部下の活動状況も把握できるので、私は普段ホームオフィス(自宅)で仕事をしている。これは私だけでなく、IBM全社員の75%がそのような働き方をしている。その人数分のオフィスが不要になったことによる経費削減の効果を想像してみてほしい。
※BYOD端末を管理:生体認証(指紋)による端末のセキュリティ確保と、業務用アプリと個人のアプリとを別のコンテナ上で動作させる仕組みの導入。
日本国内では、高知大学医学部附属病院の事例がある。この病院ではスタッフ全員にiPod Touchを配布して、患者のケアや記録の管理を行っている。これにより、いちいちスタッフルームに戻って記録をするといった作業をなくした。このデバイスの機能の導入、展開、管理をIBMがお手伝いしている。
当社の取り組みとしてユニークといえるのは、モバイル利用促進のためにクラウドファンディングのやり方を取り入れたことだろう。これは、IBMの各部門で予算をモバイルのプロジェクトに投資してもらうという試み。ただし道半ばで、投資といいながら、どの部門もIT予算の一部として計上しているというのが実態だ。
Q. コンシューマー向けモバイルアプリケーションの技術はエンタープライズにも使えるか。
コンシューマーの利便性を図るためのアプリケーションから始まり、後にバックオフィスのシステムへと機能を拡張した例がある。飛行機のCA(キャビンアテンダント)の業務を支援するものだ。飛行機の利用客が予約時に入力した「特定のものしか食べられない」「車いすが必要」といった情報を集約し、CAにタブレットで提供する。以前は同じ情報を印刷し、出発直前に渡していた。このアプリケーションの導入により、利用客へきめ細やかな対応が可能になった。
さらに、集約した利用客情報を使って、搭乗するCAを割り当てるソリューションを開発した。利用客のことが事前にわかるので、「日本語と韓国語ができるスタッフを増やす」「スワヒリ語ができるスタッフも必要」といった判断を適切かつ効率的に行えるようになった。
Q. モバイルファーストに迷いのある企業に向けてメッセージを。
伝えたいことはとてもシンプルだ。我々が数百のプロジェクトに対して行った研究では、モバイルを活用しないことで発生した機会損失による損益は、モバイルを活用するためにかかる支出をはるかに超えるものだった。これから1年、モバイルを優先して(モバイルファーストで)ビジネスをやらなければならないとプレッシャーを感じる企業がかなり増えると思う。