DroidKaigiは何もない荒野からの出発
続いて、DroidKaigi代表理事の日高正博氏による講演。DroidKaigiはAndroid技術情報の共有とコミュニケーションを目的としたイベントで、2015年4月に初開催された。翌年2016年2月に開催された回では、45セッション、6人の海外スピーカー、500名参加者と、2回目にも関わらず急速に規模を拡大した。さらにはイベント専用のAndroidアプリも提供するという力の入れようだ。
日高氏は、モバイル/Web開発に関する情報をウェブや同人誌を通して発信している「TechBooster」も主催している。両コミュニティに共通するのは「技術情報の発信」だ。エンジニア自身が自分の欲しい情報を発信したくてやっているので、運営もほぼエンジニアが主体だ。
ただ、DroidKaigiの運営には課題も多くあり、大規模カンファレンスの運営の経験がなく、母体となる組織や、運営に必要なお金もなかった。「何もない荒野からビルドアップしていくようなもの」と日高氏は言う。
しかし、チームメンバーのモチベーションは人一倍高く、技術情報を共有したいという意識が強かったとのことだ。何か困ったことがあればSlackで話し、GitHubでIssueを管理するという、ソフトウェア開発者らしいやり方で運営をしていった。
日高氏は運営を振り返り、運営チームに3つの問題点があったとした。1つ目は課題発見が困難だったこと。そもそも、今何について話せばよいのか迷いがあったという。2つ目は議論の推進できなかったこと。要望としては「コミュニケーションを取りたい!」「みんなに来てほしい!」ということが上がっても、「じゃあ具体的にどうするか?」という話まで進みづらかったそうだ。3つ目は役割分担についての課題。要望が具体的にならない結果、タスク化できず、リソースが余ってしまうことがあったという。
議論を促すために「モデル」を活用
運営チームの課題を解決するために、日高氏は「開発者Kaigiのモデルを作っていった」という。モデルを作るとは、開発者Kaigiに必要な要素を見つけて、相互の関係を明らかにしていくことだ。例えば食事なら「メニューを決める」⇒「買い出しをする」⇒「調理をする」⇒「食べる」という手順になる。実際には、GitHubのIssueを用い、テーマを決めて議論を促していった。
開発者Kaigiに必要な要素を見つけるため、まずは、YAPC::Asia、RubyKaigiなど他の大規模開発社向けカンファレンスを調査したという。例えば関係者のブログに書いてあった情報から、予算としては来場者1人あたり1万円ほどが必要なのではないか、という仮説が立てられる。その仮説をもっと具体化させるために、「ではDroidKaigiでは何が必要か」ということを抽出し、開発者Kaigiのモデルを構築していった。さらに仮説の検証として、目標に向けて不足している要素を洗い出したのち、予算やカンファレンスの機能に応じてモデルを変更していった。
議論の出発点として、ごく簡単なKaigiのモデルを作ってみたのが下記の図だ。

一口に場所を探すといっても、予算、支払条件、開催日時、交通アクセス、収容人数……と多くのパラメータがある。DroidKaigi 2016の場合だと、予算はなるべく安く、支払い条件は利用1か月前、開催日時は2月16日、17日と、パラメータに制約をつけていき、単に「場所を探す」ことから「実績調査」「候補選定」「設備下見」「会場予約」と分割し、具体化することによって、さらに新たな議論が生まれるという。
モデルを作成した効果について、日高氏は「チームの方向性を一致し、バラバラに向いていた力をまとめることができた。また、スレッドで議論しているので、それぞれが活動に使える時間が限られていても、議論に参加しやすかった」と評価する。モデルとは、単純に言い換えると「計画」と「実施」ということで、DroidKaigiは当初計画時点での厳密さは捨てて進んでいったという。物事を進めていく中で詳細にしていった。
また、3つ目の課題だった役割分担については、モデルをどんどん育てることで必要なタスクが見えてきたという。会場と一口に言っても、本会場とアフターパーティー、導線計画をどうするか。事前準備については、配布物や掲示物、当日の備品の調達、ランチやパーティーの手配など、さまざまな役割がある。
これらモデルを活用した議論のなかで気をつけたことは、「決定事項は必ず変化する」ということをチームのメンバーに伝えてきたことだ。そこを最初に理解し合うことで、ストレスがなくなるという。また、似た議論があればマニュアルとして整備、具体的にはWikiにまとめていったとのことだ。
DroidKaigiの運営を通して日高氏は「運営はボランタリーベースなので、ビジョンを共有していることが大前提」と語る。一番気をつけたのはモチベーションを保つ、ということだという。さらに具体的な工夫として、毎週土曜日に「このIssueどうなってますか?」と聞いてまわる「進捗管理おじさん」の役割を設けたこともよかった。ただ、モデルを用意しても最後まで計画は確定せず、例えばイベント中に事故が起こった際にどうするかは、最後まで決められなかったという。
このような試行錯誤の結果、運営している人も楽しめた開発者会議になった、と日高氏は振り返る。食べ物がおいしければ満足度が高いのではという仮説のもと、お弁当を凝ったり、アフターパーティーも、実際に寿司職人を呼び、寿司食べ放題にしたそうだ。「開発者が求めるものを求めた結果、ご飯がとても豪華になった」と日高氏。
開発者Kaigiのチーム運営をワークで体験
高橋氏、日高氏による講演後は、参加者に向けてワークが出題された。その場で3~4人のグループを作り、両氏の出題する課題に対してアイデアを出しあい、発表するというもの。
高橋氏からのお題は「架空のイベントを開催する運営グループの1チームとして、チームの役割、チームの名前を考えてください」。
例えば、あるグループからは、インフォメーションを担当するチームは「チームコンシェルジュ」、司会者のチームを「チームタモリ」と名付けたアイデアが。また、別のグループからは、お菓子やドリンクを提供するチームを、ドラゴンボールに登場する、一粒の栄養価が大変高い豆にちなんで「チーム仙豆」、昼食を担当するチームは、美味しんぼの「究極VS至高」にちなんで「至高の時」というアイデアが登場した。
日高氏からのワークのお題は「Kaigiの役割からモデルを作る」。開発者Kaigiの一つの要素に対して、ボトムアップでモデルを作成していくワークだ。「せっかくなので独自性を出してほしい」ということで、例としては「アフターパーティに寿司を出す」ことをあげた。
あるグループでは、「基調講演にケント・ベックとマーチン・ファウラーを呼ぶ」ことを仮定し、
- 日本人で、両者と親しい方に相談する
- 両者の書籍を出している出版社に声を掛ける
- 実現に至った場合、サテライト会場を用意する
などのモデルが発表された。
日本の開発者Kaigiとして比較的長い歴史を誇るRubyKaigiと、昨年初めて開催されたDroidKaigi。両Kaigiのチームはボランティアスタッフで構成されており、本業の傍らスタッフ業をしているため、無理は効かない。しかし、さまざまな制約のなかでも、RubyKaigiでは「名前付け」によるモチベーションの向上、DroidKaidiでは「モデル」を活用して議論を推進するなどの工夫を凝らし、開発者Kaigiを成功に導いた。今回明かされたチームの知見が、これからの開発者Kaigiの運営や身近な組織の課題解決に活かされることを期待している。
