すべてのセッションは、ライブ配信および録画で視聴できる他、基調講演については、伊藤直也氏、及川卓也氏、篠田庸介氏の3名をスペシャルゲストに迎えた日本独自のライブ中継も実施された。
冒頭に、クラウドとエンタープライズ分野を担当する副社長のスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏が登壇し、現在はモバイルファースト、クラウドファーストの時代にあり、開発者の活躍の場がますます広がっていると前置きした上で、このような世界で開発者が成功できるツールやプラットフォームを提供していくと述べた。Microsoftがサポートする開発ツール/開発言語/対象プラットフォームの選択肢は多岐に亘ってきており、統合開発ツールの「Visual Studio」製品ファミリーのミッションとして、「Best-in-class tools for every developer(すべての開発者にとっての最高級のツール)」を挙げている。
Visual Studioが実現するワークフローの一例として、macOS上のVisual Studio Code(無償の軽量コードエディタで、最新版はバージョン1.7)で、Node.jsのToDoアプリをGitHubからクローンしてデバッグやリファクタリングを行い、Dockerイメージを作成してDocker Hubにプッシュしたり、「App Service on Linux」(プレビュー版)を用い、クラウド上とローカル環境間でアプリを簡単に同期できたりすることが実演され、同社の開発環境がWindows、Mac、Linuxの境界を越えてシームレスに扱えるようになってきていることが示された。
また、GitHubのCEOであるクリス・ワンストラス(Chris Wanstrath)氏や、Linux Foundationのエグゼクティブディレクターを務めるジム・ゼムリン(Jim Zemlin)氏がゲスト出演し、現在、MicrosoftがGitHubへの貢献度が最も高い企業の一つであることを言及したり、Linux Foundationのプラチナメンバーに加入し、オープンソース活動をしている多くのエンジニアを雇用していることに感謝するなど、2014年にオープン化に大きく舵を切った同社の姿勢を裏付けた。
開発ツールの面では、今年2月に買収したXamarin(ザマリン)の統合を色濃く反映した発表が多くみられた。Xamarinは、C#を使ってiOSやAndroidのネイティブアプリを開発可能にする技術で、Windows以外のOSでも.NET Framework互換の環境を実現する目的で開発が進められている「Mono」というオープンソースの技術をベースにしている。
統合開発環境としては、「Visual Studio 2017」(コードネーム:Visual Studio "15")のリリース候補版(RC)が発表され、「Xamarin for Visual Studio 4.3」がプレビュー版として同梱されている。リモートエミュレーターの「iOS Simulator for Windows」や、XAMLで定義したUIのリアルタイムプレビューを行える「XAML Previewer for Xamarin.Forms」(プレビュー版)を駆使し、Windows、iOS、Androidを対象としたクロスプラットフォームのネイティブアプリ開発を一つの開発環境で行える様子が、自転車シェアリングサービスの実装例を通して紹介された。
動的解析を行う「Xamarin Inspector」により、ブレークポイントを設定することなくリアルタイムでモバイルアプリケーションの状況を把握したり、3D表示でUIの状況を細かく確認できたりすることも示された。
また、Xamarinの統合開発環境「Xamarin Studio」をベースにした「Visual Studio for Mac」のプレビュー版も発表され、macOSでも.NET Frameworkベースの開発にIDEの恩恵が受けられるようになった。プレビュー版は本日から無料でダウンロードして使える他、製品版については既存のサブスクリプションユーザーであれば追加費用なしで使えること、無料のコミュニティエディションの提供も予定されていることが言及された。
モバイルアプリのイテレーション開発を手助けする視点では、「Visual Studio Mobile Center」のプレビュー版が公開された。モバイルのテストや、デプロイ後の監視サービスをパックにしたもので、HockeyApp(モバイルアプリの開発、配布、ベータテスト)やXamarin Test Cloud(クラウドベースで1000種類を越えるデバイスの実機テストが行える)の機能が含まれている。
Dockerによるコンテナベースの開発サポートも大きく強化された。機能拡張「Visual Studio Tools for Docker」(プレビュー版)により、Dockerに不慣れな開発者の習得コストを抑えることができ、前述のApp Service on Linuxや、コンテナ―のデプロイと管理が行える「Azure Container Serviceを組み合わせることで、開発/デバッグ/デプロイのすべてのワークロードにおいて、Dockerのサポートが行われるようになっている。
プレビュー版としてリリースされていた本番環境のアプリの運用監視サービス「Azure Application Insights」は、正式版(GA)となった。
データベースの領域では、SQL Server 2016 Service Pack 1が正式リリースされ、前バージョンではEnterpriseエディションに限られていた、インメモリ最適化や運用分析といった一部の機能が、StandardやExpressでも利用可能となった。また、Docker技術をベースにしたSQL Server on Linuxのプレビュー版も発表され、ビッグデータの格納・処理・分析を行う「Azure Data Lake」は正式版(GA)となった。
今後、個別に最適化されたユーザー体験を提供するための要素技術などとして期待が高まっているボットサービスの開発支援機能として、「Azure Bot Service」のプレビュー版が紹介された。現在、C#とNode.jsをサポートしており、あらかじめ用意されたテンプレートを利用することで、FacebookメッセンジャーやSkype、Slackをはじめとするさまざまなチャンネル向けのボットを簡単に作成できる。
自然言語を理解するコグニティブコンピューティング機能を提供する「Azure Cognitive Service」(プレビュー版)や、イベント駆動によるサーバーレスなアーキテクチャを実現する「Azure Function」などとの親和性も高く、自転車シェアリングサービスの実装例では、キオスク端末で顔認識やフレーズ認識によりユーザーを識別したり、自転車紛失時のサポートをシステムを相手にチャットによる会話で行ったりする様子が紹介された。
基調講演の終盤では、プリンシパルプログラムマネージャーを務めるスコット・ハンセルマン(Scott Hanselman)氏が講演を進行し、Visual Studio 2017やC# 7の新機能紹介の他、.NETのオープン化を管理する団体「.NET Foundation」へのGoogleの加入や、中心メンバーの一社であるSamsongによる「.NET Core for Tizen」「Visual Studio Tools for Tizen」の提供なども紹介された。
その他の新機能や詳細については、Connect(); // 2016のイベントページや、Channel 9のアーカイブ、MSDN Blogsの投稿などを参考にして欲しい。