エンジニアリング経験ゼロからのスタート
「今日はGo言語やDockerといった技術の話ではなく、今に至るまでに考えてきたことを紹介するので、Under30エンジニアが生き残っていくための参考になれば、と思う」
松本氏は冒頭にこう述べ、基調講演が始まった。CtoCコマースの横断検索サービスをはじめとする、新規事業開発全般のマネジメントを務めている松本氏は現在27歳。イベントの参加者と同じ「Under30」だ。Gunosyに入社して1年で執行役員に任命され、昨年までCTOとして技術全般を見てきた。そんな松本氏はGunosyに入るまで、どのような道を歩んできたのだろうか。
東京大学工学部に在籍しながらも「二つのベンチャーを起業した。そのうちの1社は事業売却した」と学生時代を振り返る松本氏。当時は「俺たちが次のザッカーバーグ(Facebookの創業者)になるんだ」と学生起業ブームが巻き起こっており、松本氏もその中にいた。「開発経験がゼロだったにも関わらずいきなり起業し、CTOという無謀なキャリアからスタートした」のだという。その背景には「とにかくユーザーに使われるモノを作ってみたい」という思いがあった。最初はARとSNSを組み合わせたサービスを、PythonとGAEを使って開発した。
もう一つのベンチャーでは時間割アプリを開発し、RubyやiOSに携わることになった。プロダクト自体はなんとかリリースできたものの、当時の技術レベルは「振り返るのもつらいくらい。AWSもiOSもあまり理解しておらず、Pythonを少し書ける程度だった」と明かす。
松本氏がGunosyへの入社を決めたのは、大学を卒業する年の1月。いきなり「『ここで働きます』と宣言して、勝手に居座った」と笑いながら語る。松本氏はGunosyで唯一、面接を経験しないで入社したのだそうだ。
入社後は主にプロダクトの改善を担当し、機械学習以外のほぼ全ての領域に携わったが、それには理由があった。松本氏が参加したチームには機械学習のエキスパートが多く在籍し、アプリやサーバーサイドについての知識を持つエンジニアがほとんどいなかったのだ。最初はGunosyにとって価値があり、技術的にも比較的簡単なデータ基盤の整理を担当しながら、必要な技術を必死にキャッチアップしていったという。
さらに、松本氏が携わったのは技術面だけではない。「ゼロから1800万ダウンロードに至るまでのサービス開発に携わる、チーム作りも担当してきた」のだ。現在、Gunosyは10個程のプロダクトを抱えているが、「それら全部をスムーズに運営するチーム体制ができている」という。現在は新規事業担当として「必要なことをなんでもこなせるだけの技術力を身につけることができている」と語る。
目的地に対して最短のスタートラインから始めよう
着実にステップアップしてきた松本氏。今後「Under30エンジニア」が生き残っていくために大切なのは、「まず目的地に対して最短のスタートラインから始めること。これは若い人だからできることでもある」と語る。
Webサービスを作る場合、数年前であればLinuxの環境作成から始めなければならなかった。しかし今は「Amazon Lightsail」や「Google App Engine」といったOSSやサービスを活用することで、簡単にアプリケーションを作成できる。つまり「5年前のスタートラインは今のスタートラインにはならない」ということだ。
「若い人は自分の目標に対して最短のスタートラインからスタートしたほうがいい。『こんなことも知らないのか』と言われるかもしれないが、気にしないでほしい。まずは目的に向かうこと。達成に近づくと課題が出てくるので、その課題に対して深掘りしていく。それが正しいアプローチだと思う」
基礎は時代で変わる、だからこそ「最短距離を走る」べきなのだ。
次に大切なことは「どこを目的地にするのか考えること」だという。「スタートラインと目的地をきちんと見極めれば、後はなんとかなる」と語る。
人それぞれ、さまざまな目標がある。「お金を稼ぎたい」「エンジニアとして認められたい」「Ruby on Railsに変わるフレームワークを作りたい」――掲げている目標は本当に正しい目標なのか、本当に自分が心から願っているものなのか、嘘偽りなく認識するためにも「最終的に達成することは誰に評価されたいのか」考える必要がある。「何を目的とし、そのために何を評価軸とするのか。評価軸は正しく自分が正しく先に進むために非常に大事」と松本氏は語る。
その目的に向かうためには、課題の設定と分析が重要となる。「課題は設定できた時点で7割解決しているという言葉もあるが、課題が正しく設定できていればなんとかなる」という。「初めて直面する課題は実はそんなに多くない」からだ。いろいろな人に相談するのも一つの手であるし、課題を分解することによって類題が見つかることもある。だからこそ、課題を正しく設定することが大切なのだ。