「組織の成功循環モデル」による好循環を目指して
天神オフィスにおけるYahoo!天気・災害チームの立ち上げがスタートしたのは、2019年4月だ。Yahoo!天気・災害は人命に関わる情報を扱っているため、有事の際にも継続して情報を届ける必要がある。そこで「万が一に備えて、天神拠点を立ち上げたい」との方針から、プロジェクトはスタートした。立ち上げ時、天神拠点の開発チームは藤本氏と天気・災害サービス未経験者の少人数。メイン拠点である大阪には多くの人数が所属している状態だったという。
初期フェーズにおいて、藤本氏はプロジェクトの計画策定を行った。チームの目標は、まず半年間で土台作りを行い、開発・運用の基本的な業務を実施可能な状態にすること。そして1年間で自治的に動けるチームへと成長し、「本拠点とは場所が異なるだけで、実施できる業務は全て同じ」状態にすることである。プロジェクトのスケジュールは以下だ。
- 4月:天気システム理解
- 5月:防災速報システム理解
- 6月:システム理解バッファ期間
- 7月:中規模開発+運用業務
- 8月:中規模開発+運用業務
- 9月:運用主担当
4~5月は、天神オフィスのメンバーが天気システムと防災速報システムを理解することからスタートする。天気システムの仕様については、開発・運用に携わっている藤本氏がメンバーに基本的なレクチャーを行う。防災速報のシステムについては、大阪拠点にいる有識者と連携を取り合いながら理解を深めていくこととなった。
チームの立ち上げにあたり、藤本氏は「組織の成功循環モデルのグッドサイクルを回すこと」を意識したと語る。
「組織の成功循環モデルとは、組織に成功をもたらすための基本的な考え方です。メンバー同士の相互理解が深まり関係の質が高まれば、お互いを尊重して一緒に考えるようになります。考えるようになれば、メンバーが自ら気づいて面白いと感じるようになり思考の質が向上します。面白いと感じて自発的に行動するため、行動の質が向上します。すると結果の質が向上して成果が得られ、信頼関係が高まり関係の質がさらに向上するのです」(藤本氏)
このサイクルを実現してより良い成果を出すうえで、大阪拠点との関係構築が極めて重要であると藤本氏は考えた。そこで、チーム立ち上げ初期は天神チームのメンバーを引き連れて大阪へと出張し、大阪メンバーとの顔合わせを実施したそうだ。
出張を終えた後は、天気システムを理解する期間がスタートした。天神拠点にいる藤本氏がメンバーへシステムのレクチャーを行い、不明点があればその場で藤本氏に質問してもらう。密に連携を取りながら、順調に理解が進んでいった。
天気システムの理解期間が終わり、次は防災速報のシステムを理解する期間に入る。レクチャーを実施してもらうため、大阪チームのメンバーに出張で1週間ほど天神に来てもらい、短期集中合宿を行った。
合宿後は、Slackなどのチャット経由で大阪チームとコミュニケーションを取りつつ、システムの理解を進めていくことになる。だが、ここで問題が発生した。「顔とチャット上のアイコンが一致せず、誰が誰だかわからない」「気軽に話しかけづらいため、大阪チームの進捗がわからない」といった声が天神チームからあがったのだ。
そこで藤本氏はコミュニケーションの改善を行った。天神チームのみで実施していた朝会を、ビデオチャットを使用して大阪チームと一緒に実施することにしたのだ。朝会を何度か実施していくと、天神チームから「普段関わる人の顔がわかるようになったため、チャット上での質問がしやすくなった」「大阪でどういった作業をしているか、どのような進捗かがわかってきた」などのポジティブな意見が出るようになった。
だが、一安心と思いきや今度は大阪チームから不満の声があがる。「この朝会は意味があるのか」「これだけ大人数が集まるのはコストが大きすぎるのでは」といった意見が出たのだ。「天神チームが仕事を円滑に進めるために大阪チームに調整をしてもらっていましたが、大阪チームの意見を聞けていなかったことに気づきました」と藤本氏はふり返る。
より適切な情報連携の方法を再度検討した。最適化後の方法はこうだ。まずは必要な時にテレビ会議で作業者の画面を映しながら、リリース作業やコードレビューの内容を拠点間で共有することにしたという。
コードレベルでの進捗はPull Requestを確認する方針にした。Gitのwebhook機能を利用してPull Request作成時には全員に通知し、天神チームの朝会でその内容を見ることにしたのだ。また、人数を絞って週に一度の定例報告会を拠点間で開催し、リリース報告や作業・案件報告を行った。
これにより学習や情報共有にかかる全体的な工数を抑えつつ、天神チームがシステム理解を深められる状態になったのだ。