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【デブサミ2019福岡】セッションレポート(AD)

「自治的なチーム」の構築法とは? Yahoo!天気・災害 天神拠点の立ち上げでの実践から学ぶ【デブサミ2019福岡】

【A-2】 Yahoo!天気・災害 天神拠点立ち上げ~新米リーダーの悪戦苦闘~

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 ヤフーの福岡の開発拠点である天神オフィスでは、今春からYahoo!天気・災害チームの立ち上げを行っている。プロジェクトにおいてリーダーを務めたのが、ヤフー株式会社のメディアカンパニーメディア統括本部 開発本部の藤本一成氏だ。サービスのメイン開発拠点である大阪拠点とリモートでの共同開発を行う過程で、藤本氏が実践した「良いチームを作るための手法」とは何か。

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ヤフー株式会社 メディアカンパニーメディア統括本部 開発本部 藤本一成氏
ヤフー株式会社 メディアカンパニーメディア統括本部 開発本部 藤本一成氏

「組織の成功循環モデル」による好循環を目指して

 天神オフィスにおけるYahoo!天気・災害チームの立ち上げがスタートしたのは、2019年4月だ。Yahoo!天気・災害は人命に関わる情報を扱っているため、有事の際にも継続して情報を届ける必要がある。そこで「万が一に備えて、天神拠点を立ち上げたい」との方針から、プロジェクトはスタートした。立ち上げ時、天神拠点の開発チームは藤本氏と天気・災害サービス未経験者の少人数。メイン拠点である大阪には多くの人数が所属している状態だったという。

 初期フェーズにおいて、藤本氏はプロジェクトの計画策定を行った。チームの目標は、まず半年間で土台作りを行い、開発・運用の基本的な業務を実施可能な状態にすること。そして1年間で自治的に動けるチームへと成長し、「本拠点とは場所が異なるだけで、実施できる業務は全て同じ」状態にすることである。プロジェクトのスケジュールは以下だ。

  • 4月:天気システム理解
  • 5月:防災速報システム理解
  • 6月:システム理解バッファ期間
  • 7月:中規模開発+運用業務
  • 8月:中規模開発+運用業務
  • 9月:運用主担当

 4~5月は、天神オフィスのメンバーが天気システムと防災速報システムを理解することからスタートする。天気システムの仕様については、開発・運用に携わっている藤本氏がメンバーに基本的なレクチャーを行う。防災速報のシステムについては、大阪拠点にいる有識者と連携を取り合いながら理解を深めていくこととなった。

 チームの立ち上げにあたり、藤本氏は「組織の成功循環モデルのグッドサイクルを回すこと」を意識したと語る。

 「組織の成功循環モデルとは、組織に成功をもたらすための基本的な考え方です。メンバー同士の相互理解が深まり関係の質が高まれば、お互いを尊重して一緒に考えるようになります。考えるようになれば、メンバーが自ら気づいて面白いと感じるようになり思考の質が向上します。面白いと感じて自発的に行動するため、行動の質が向上します。すると結果の質が向上して成果が得られ、信頼関係が高まり関係の質がさらに向上するのです」(藤本氏)

 このサイクルを実現してより良い成果を出すうえで、大阪拠点との関係構築が極めて重要であると藤本氏は考えた。そこで、チーム立ち上げ初期は天神チームのメンバーを引き連れて大阪へと出張し、大阪メンバーとの顔合わせを実施したそうだ。

 出張を終えた後は、天気システムを理解する期間がスタートした。天神拠点にいる藤本氏がメンバーへシステムのレクチャーを行い、不明点があればその場で藤本氏に質問してもらう。密に連携を取りながら、順調に理解が進んでいった。

 天気システムの理解期間が終わり、次は防災速報のシステムを理解する期間に入る。レクチャーを実施してもらうため、大阪チームのメンバーに出張で1週間ほど天神に来てもらい、短期集中合宿を行った。

 合宿後は、Slackなどのチャット経由で大阪チームとコミュニケーションを取りつつ、システムの理解を進めていくことになる。だが、ここで問題が発生した。「顔とチャット上のアイコンが一致せず、誰が誰だかわからない」「気軽に話しかけづらいため、大阪チームの進捗がわからない」といった声が天神チームからあがったのだ。

 そこで藤本氏はコミュニケーションの改善を行った。天神チームのみで実施していた朝会を、ビデオチャットを使用して大阪チームと一緒に実施することにしたのだ。朝会を何度か実施していくと、天神チームから「普段関わる人の顔がわかるようになったため、チャット上での質問がしやすくなった」「大阪でどういった作業をしているか、どのような進捗かがわかってきた」などのポジティブな意見が出るようになった。

 だが、一安心と思いきや今度は大阪チームから不満の声があがる。「この朝会は意味があるのか」「これだけ大人数が集まるのはコストが大きすぎるのでは」といった意見が出たのだ。「天神チームが仕事を円滑に進めるために大阪チームに調整をしてもらっていましたが、大阪チームの意見を聞けていなかったことに気づきました」と藤本氏はふり返る。

 より適切な情報連携の方法を再度検討した。最適化後の方法はこうだ。まずは必要な時にテレビ会議で作業者の画面を映しながら、リリース作業やコードレビューの内容を拠点間で共有することにしたという。

 コードレベルでの進捗はPull Requestを確認する方針にした。Gitのwebhook機能を利用してPull Request作成時には全員に通知し、天神チームの朝会でその内容を見ることにしたのだ。また、人数を絞って週に一度の定例報告会を拠点間で開催し、リリース報告や作業・案件報告を行った。

 これにより学習や情報共有にかかる全体的な工数を抑えつつ、天神チームがシステム理解を深められる状態になったのだ。

メンバーの自治性を促すため、新米リーダーが取り組んだこと

 天気と防災速報のシステムの理解が進んだ後、天神チーム立ち上げの中期ではシステムの開発・運用を実践していった。中規模開発案件が開始したため、その打ち合わせと拠点間コミュニケーションのさらなる改善を目指して、天神メンバーは再び大阪に出張する。

 「関係性の構築を目的として、大阪チームのリーダー陣には天神メンバーに対して1on1を実施してもらいました。メンバーの成長を支援するために、1on1は次のサイクルで行います。まず、メンバーは実務を担当したことで具体的に何かの経験をしています。1on1ではまず、その業務についてふり返ってもらい、自らの行動に対して改善点がなかったかを内省してもらいます。気づいたことを学びとし、現場で新たな挑戦を行うのです。

 対面でのコミュニケーションを取ったことで、拠点間の連携でメンバーが抱えていた数多くの懸念を払拭できました」(藤本氏)

 これで万事うまくいくと思いきや、そう簡単にプロジェクトは進まない。徐々に業務量が増えてきたため、天神チームから「やることが増えて優先順位がわからなくなってきた」「本当に全ての作業をやらなければいけないのか」という声があがったのだ。「タスクが増える中、共通認識を持って目標に進むことの難しさ、重要性を痛感した」と藤本氏は語る。

 本来の目的を見失わないために天神チームが取り組んだのが、インセプションデッキの作成だ。インセプションデッキとはプロジェクトの目的や背景といった全体像を捉えて、向かう先を表すためのドキュメントである。下図の10個の質問と答えから構成される。

 インセプションデッキは、上司ではなくチームメンバー自身が作ることが重要だ。そうすることで、メンバーにとってより納得感のある行動指針となるためである。プロジェクトの優先順位を確認し合ったことで、天神チームの各メンバーは安心して業務を進められる状態になった。

 「特に『我々はなぜここにいるのか』『やらないことリスト』『トレードオフスライダー(ローンチ時期、スコープ、予算、品質はどのような優先順位か)』の3つの質問は、プロジェクトが目指す方針の意識合わせをするうえで、非常に有益でした」(藤本氏)

 7~8月には中規模開発案件も終盤になり、リリースに向けての追い込みを実施。ちょうどその時に、藤本氏に別のミッションが発生した。なんと、東京で発足した新規開発案件に、藤本氏がジョインすることになったのだ。もちろん、天神拠点の立ち上げプロジェクトと並行しながら、である。

 「かなり危機的な状況で、残業時間が増えてしまい全ての業務をさばき切れない状態になってしまいました。このままでは立ち行かなくなると思い、大きな方針転換をします。天神チームの中規模開発案件をメンバーに任せ、要所でのサポートのみを行う決断をしたのです」(藤本氏)

 要所でのサポートは、どのようなことをしたのだろうか。例えば、朝会には必ず参加し、つまずいているところはないかを確認した。技術的な相談は大阪のエンジニアに委ねる方針をとった。テレビ会議や出張などのコミュニケーションを通して培った大阪チームとの関係性はこういう時のために活用するべきだと判断し、天神チームから大阪チームへ直接相談してもらう方針に切り替えたそうだ。

 また、中規模開発案件の作業を丸ごと任せることで、当然ながらメンバーは忙しくなる。その中でもモチベーションを高く保ってもらうため、自らが作るプロダクトの与える影響を意識してもらいながら仕事を進めるように促していった。

 「現在(登壇した2019年8月29日時点)、天神チームがシステム運用の主担当となるべく準備を進めています。初めてのチームビルディングは簡単ではありませんでした。しかし、組織ができあがっていく様子を見るのは、本当にうれしいものです」と藤本氏は総括し、セッションは終了した。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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