「ユーザーの体験をより良くすること」を考え続ける
プロジェクトにおいては、全体的な工数の半分以上を設計に要した。なぜなら、「エンジニアが、ユーザーの気持ちをなかなかイメージできない」という課題に直面したからだ。この課題を解決するため、小林氏は3つの作戦を立てた。
1つ目は「自分の体験を掘り下げてもらう」ことだ。例えば「なぜブログやmixiで体験や気持ちを共有することにワクワクしたのか」を考えてもらう。そうすると、理由がいくつも挙がる。当時の気持ちとその理由を、エンジニアにイメージしてもらうことが可能になるのだ。
エンジニアがイメージしたこと
- プロフとか共有することで「仲間感、つながり感」ができてた!
- Twitterは同じ想いを今、その場で、共感できるから、謎の一体感ある!
- pixivが盛り上がったのは、HTMLがわからなくても簡単に作品が共有できたから。
- リアクションあるとモチベ上がる!
こんなふうに「心が動いた理由」を言語化することで、「サービスにどのような体験が必要か」が明確になる。
2つ目は「社内にいる人物を掘り下げてもらう」こと。例えば、ドリーム・アーツ社内にもWebの社内報を担当する社員がいる。その社員は子を持つ母であり、プログラミング経験は全くない。HTMLが苦手なので、下書きした文章をHTMLに変換する作業に時間がかかっているはずだ。つまり、その社員が機能を使う場面が想像できることで、必要な設計が見えてくる。
3つ目は「とにかく数多くのユーザーインタビューをする」こと。場数を踏むにつれ、インタビューの内容も変化していった。最初は「どんな課題を解決したいですか」といった漠然とした内容だったが、徐々にユーザーの日常生活にフォーカスし、具体的な業務内容を聞く方向にシフトしていった。「これらの施策を行うことで、ユーザーがどう行動してどのような気持ちになるのか、リアルに想像できるようになりました」と小林氏は語る。
設計に時間がかかったものの、その後の開発フェーズは短期間で終了した。全員の認識が事前に合っていたため、手戻りが少なかったのだ。リリースから1年が経った現在では、コンテンツ機能は1万アカウント以上で利用されている。
「プロジェクトを自分ごととして捉え、『何を作るのか』を自分自身で考えることが重要です。そうすることで、『もっとこういう機能にしたい』『担当領域についてもっと勉強したい』『ユーザーからの喜びの声が嬉しい』と実感できます。
自分で考えるからこそ、モチベーション向上につながります。コードを書くことがより楽しくなります。『何万人もの方々に使っていただいている機能を、私たちが作りました』と、実績として情報発信することも可能になりました。『何を作るのか』を自分で考える行為は、エンジニアに幸せをもたらすと私は感じています」
ユーザーの課題を解決するプロダクトを創出するには、日常的にユーザーのことを考え、観察し続ける姿勢が必要だ。「プロダクトオーナーシップに必要なこととは、ユーザーの体験をより良くすることを考え続けられること。そして、それを楽しむことです」と小林氏は結び、セッションは終了した。
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株式会社ドリーム・アーツ