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ProductZine Day&オンラインセミナーは、プロダクト開発にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「ProductZine(プロダクトジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々のプロダクト開発のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

ProductZine Dayの第2回開催です。

ProductZine Day 2024 Winter

ProductZine Day 2024 Winter

プロダクト開発の先進事例に学ぶ、キーパーソンインタビュー

原点は「どんな世の中を作りたいか」――DataSignが懸ける、未来の困りごとを解決するプロダクトづくりとは

 どんなに新しく革新的なプロダクトも、使ってもらえなければ意味がないということから、ユーザーの声やニーズから課題を見つけ出し、それにフィットしたものを仮説検証しながら作っていくのが定石だ。しかし、情報銀行という耳慣れないプロダクトを手掛けるDataSignの代表 太田祐一氏は、「だれもが公正に安心してパーソナルデータを活用できる世界の実現」といった、あくまでもビジョン先行でプロダクトを開発しているという。本当の意味での「ゼロイチ」のプロダクトづくりの考え方について、太田氏に伺った。また、その「ビジョン」と現実のギャップを埋めるプロダクトマネジメントについて、同社プロダクトマネージャーの坂本一仁氏に聞いた。

DataSignのビジョンを実現するためにプロダクトが担う役割

――まず、お2人のこれまでのキャリアについて教えてください。

太田祐一氏(以下、太田):DataSignの創業以前は、証券会社やアドテク企業などで「データ分析」を中心にキャリアを積んでいました。現在は、DataSignのビジョン実現に責任を持つ立場です。僕らのビジョンは「だれもが公正に、安心してパーソナルデータを活用できる世界の実現」というものなのですが、そのためのプロダクトづくりや情報発信、提言などを行っています。

株式会社DataSign Founder/CEO 太田祐一氏
株式会社DataSign Founder/CEO 太田祐一氏

坂本一仁氏(以下、坂本):「webtru」(ウェブトゥルー)のプロダクトマネージャーを務めている坂本です。DataSignには2020年1月に入りました。以前は、大学院を卒業してから10年ほど、セキュリティ関連企業の研究所で情報セキュリティの研究をしていました。

 オンラインプライバシーについての研究に取り組んだのは、2014年ごろからです。当時、オンライン広告がRTB(リアルタイム入札)などを活用した運用型に変わる流れがあり、そのころからプライバシーの問題が取りざたされるようになってきました。そこに興味を持って、オンラインでのユーザートラッキングや情報のコントロールをテーマとするようになりました。

 オンラインでのプライバシー問題については、「面白いけれど、ビジネスにはならなそうだな」と思いながら関わっていたのですが、2018年に、あるセミナーで太田さんの講演を聞き「この領域をビジネスにしようとしている会社がある!」と衝撃を受けました。その後、太田さんとはしばらく交流があり、2020年にDataSignに入って、webtruのプロダクトマネージャーに就任したという経緯です。webtruはもともと、DataSignの立ち上げ当時から開発されていたプロダクトなのですが、それをさらにグロースさせるための役割を担っています。

株式会社DataSign プロダクトマネージャー 坂本一仁氏
株式会社DataSign プロダクトマネージャー 坂本一仁氏

――DataSignでは、「webtru」(ウェブトゥルー)と「paspit」(パスピット)という2つの情報銀行プロダクトを提供していますが、どういったものでしょうか。

太田:プロダクトの説明だけをしてしまうと、なぜDataSignがそれらを作っているのかが分かりづらいと思いますので、その背景にあるビジョンについても、合わせてお話しします。

 僕は以前、「データ分析」をやっていたと話したのですが、具体的にはインターネットユーザーのパーソナルデータを用いたDMP(Data Management Platform)を作っていました。みなさんが、インターネットを使っていると、例えばあるECサイトで見た商品が、別のサイトの広告に出てくるということがありますよね。それは、サイト内で取得された、訪問者の情報と、その人が関心を持った商品の情報が関連付けられて、広告表示に使われているためです。現在のインターネットでは、ありとあらゆるところで、日々、そうしたデータが収集されています。僕は以前、そのデータを収集し、活用するための仕組みを作っていました。

 こうした仕組みは今、ネットのあらゆる場所で使われています。企業側としては、個々のユーザーの行動履歴や趣味嗜好に合うものをレコメンドできる点でメリットがあるわけですが、ユーザーの立場になった時、自分が意識していないところで、そうしたデータが使われているということに違和感を覚えました。

 2013年前後には「ビッグデータの活用」が、企業ITの領域でバズワードとなりましたが、その際、データを取得される「ユーザー」の立場というのは、あまり尊重されていなかったように感じます。こうしたやり方によるビジネスは、長期的には成り立たないだろうと思うようになりました。

 世の中のパーソナルデータに関する意識も、少しずつ変わってきています。2016年には、EUでGDPR(一般データ保護規則)が制定され、個人データの保護に関する規制が強まりましたし、2018年には、Facebookのパーソナルデータを、大統領選挙において世論誘導に使ったとされる「ケンブリッジ・アナリティカ事件」が明るみに出て、世間の非難を浴びました。日本でも、つい最近、就職情報サイトがユーザーデータから算出した内定辞退率を企業に提供していたことが社会的な問題となりました。こうした状況の中で、法規制の強化やプラットフォーマーのスタンスの変化があれば、これまでのように、企業が主体となって個人データ囲い込み、それをマネタイズすることはどんどん難しくなります。

 こうした世の中の変化と合わせて、ユーザーにも、自分に関する情報を、自分の意思でコントロールしたいと考える人が増えてくるでしょう。自分のデータは自分で管理し、どういうときに、誰に対して、どのような情報を提供するかを主体的に決めた上で、その対価として利便性の高いサービスや商品を享受できれば、それは企業にとっても、個人ユーザーにとっても、価値があることです。

 DataSignは、そういう世の中を作ることを目指している会社であり、そのために「webtru」「paspit」というプロダクトを作っています。

坂本:「webtru」は、法人向けに提供しているサービスです。機能としては、対象となるWebサイトをスキャンして、そこで使われている広告ネットワークをはじめとするデータ収集モジュールをリストアップします。サイト利用者は、そのリストを見て、データの利用範囲について、自分でコントロールできるようにしています。

 規模が大きなサイトになるほど、利用するユーザーも、さらにはサイトを運営している側も、そのサイトにどんなタグが埋め込まれていて、データがどんなサイトに送られているのかをすべて把握することが難しくなっています。自社サイトにwebtruのウィジェットを埋め込むと、そうした情報を可視化し、ユーザーが自分のデータをどこで利用することに同意しているのかを管理できるようになります。

 webtruは、メディアサービス、ECサイト、会員サービスなどを運営している大手企業を中心に、現在50社近くの導入実績があります。

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本当の「0→1」のプロダクトづくりに取り組む時には「ユーザーの声」を聞くべきではない?

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この記事の著者

柴田 克己(シバタ カツミ)

フリーのライター・編集者。1995年に「PC WEEK日本版」の編集記者としてIT業界入り。以後、インターネット情報誌、ゲーム誌、ビジネス誌、ZDNet Japan、CNET Japanといったウェブメディアなどの製作に携わり、現在に至る。 現在、プログラミングは趣味レベルでたしなむ。最近書いてい...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岡田 果子(編集部)(オカダ カコ)

2017年7月よりCodeZine編集部所属。慶応義塾大学文学部英米文学専攻卒。前職は書籍編集で、趣味・実用書を中心にスポーツや医療関連の書籍を多く担当した。JavaScript勉強中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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