提供価値(=ブランドバリュー)の基本
提供価値のゴールは、自分たちのプロダクトが社会課題にどう向き合ってきたのか、また大切にしてきた考えや、脈々と継承してきた“こだわり”を再確認し、独自の価値観をまとめることだと考えています。
その中でもとりわけ重要なプロセスが、プロダクトの使命と存在目的をミッションとして示し、その先の未来図をビジョンとして掲げること。そして自分たちのアイデンティティやこだわりを“バリュー”という言葉で明らかにすることです。
ミッション、ビジョン、バリュー、略してMVVは、企業理念を示すための概念として耳にすることが多いと思いますが、サービスやプロダクトにおいても上位概念として定義しておくことをオススメします。
- ミッション:企業またはプロダクトとして達成すべき使命。パーパス、存在目的。
- ビジョン:社会における、企業またはプロダクトの未来像。展望、構想。
- バリュー:企業またはプロダクトにおいて、もっとも大切にすべき考えや文化。
プロダクトのMVVを整理することで、そのプロダクトが企業のミッション達成のためにどのような役割を担うサービスなのかが明確になるというメリットがあります。MVV自体が、事業領域と市場のポジショニング、サービスの広げかたを明らかにすると捉えることもできるでしょう。つまり、これこそがブランド戦略そのものと言えるかもしれません。
定義する際には、独自の解釈や表現を用います。当事者としてMVV自体をどのように捉え、どんな言葉で表現しているのかを関係者に示すことで、関わるすべての人に自分ゴトとして考えるための意識を植えつけ、深いコミットをつくることにつながるのです。
またプロダクトの利用者に対しても、ユーザー自身がその企業やプロダクトを利用する意義を理解することで、ただサービスを利用するより深いつながり、すなわち“関わる意味”をつくることできます。
身近な例で考えてみましょう。ユニクロなどのブランドを展開するファーストリテイリングのミッションを、私はこのような意味だと解釈しています。(下記は私が言い換えたもので、実際に同社で明文化されているミッションとは異なります)
新しい価値ある服を創造し、良い服を着る喜びや幸せを提供すること、また暮らしの充実を通じて社会発展を目指すこと。
ファーストリテイリングが抱える代表的なブランドがユニクロとジーユー(GU)なわけですが、それぞれの役割にはどのような違いがあるのでしょうか。少し考えてみたいと思います。
メイン事業としてアパレル衣料品の製造と小売を行う中で、それぞれ下記のようなコンセプト/バリューを打ち出しています。
- ユニクロ:究極の普段着“LifeWear”
- ジーユー:トレンドを取り入れた新しい自分に出会える服“YOUR FREEDOM”
ユニクロは日常的な服、GUは旬で革新的な服というように、それぞれ独立した形でミッションを実現するための戦略をとっていることがわかります。各コンセプト/バリューから、市場、ターゲット層、コンセプトなど企業のブランドポートフォリオが差別化しながら規模の拡大を目指す「マルチブランド戦略」を選択していることも見えてくるでしょう。
このように、企業ミッションの実現方法をブランド単位で明確にすることが、企業全体の戦略をより深く理解したり、向き合うサービスの存在目的の解像度を上げることにも役立ちます。一度、MVVをもとに提供価値の整理を行ってみてはいかがでしょうか。
提供価値(ブランドバリュー)は、言語と非言語で整理される
ここであらためて、提供価値の全体像へと話を戻していきましょう。
ブランドバリューには2種類の要素があります。
- 言葉として定義できる「言語の価値」
- ビジュアルで定義する「非言語の価値」
ブランドバリューを定義する際は、1に当てはまる言語領域の価値基準7つと、2にあたる非言語領域の価値基準3つ、計10個で構成したフレームを用います。
詳細はこのあと触れますが、今回言語・非言語で記載している項目は、デザイナーに限らず、プロダクトの意思決定に関わるコアメンバーが、その決定基準を理解し、ブランドらしい体験を検討するための赤本として活用するイメージが近いと思います。定期的に、プロダクト利用者からの認識を定点観測しながら状態を把握し、メンテナンスサイクルを回すことをオススメします。