顧客に向き合い、ブランド独自のスタイルを考える
ここからは非言語領域の価値として挙げた、「8.理想的な顧客像」、「9.ブランドパーソナリティ」、「10.ブランドイメージ」の3つについて説明します。
8. 理想的な顧客像
ここでは、くりかえしお伝えした“ユーザー”“サービス利用者”のペルソナを簡潔な一文で書き出します。プロダクトをもっとも利用し続けてほしいユーザーが、どのようなライフスタイルでどんな志向をもっているのか、想像してみてください。プロダクトがすでにユーザーに利用されている場合、現在の顧客のペルソナではなく、理想的なユーザー像を少し抽象的であっても可視化すること。そして実在ボリュームに左右されず、プロダクトのファンになり得る顧客像を特定して認識・確認することが必要です。
たとえばスターバックスの場合、“都会的で上質な生活空間を求める人”と記載するとしましょう。その文の中でライフスタイルやユーザー属性、プロダクトを利用する理由や動機が明確に感じられる内容にまとめていくことで、非ファンの既存ユーザーをファン化するための仮説として、追うべきファン像を明確にできるのです。
ここで重要なのが、プロダクトを利用するユーザー万人に魅了される姿を意識しないことです。プロダクトに惹かれるファンは、通常のプロダクトでは、選ばないような非現実的な選択肢を取る独自の哲学や、その独創的な背景エピソードから感じるこだわりに魅了されやすい傾向があります。
逆に、全方位的にあらゆるユーザーがファン化するブランドは、すでに認知された著名プロダクトの個性に似通ったバリューや、低価格帯を魅力とし、オリジナリティの低いブランドになりがちです。将来的にレイトマジョリティ層を意識した顧客戦略を想定する場合にも、まずは熱狂的にプロダクトを利用し続けるコアファンをイメージすることが大切です。
9.ブランドパーソナリティ
ブランドパーソナリティとは、プロダクトを人格として捉え、プロダクトに見合った性格や立ち振る舞い、倫理観を定めることで、ユーザーとの接客スタイルがその人格とズレていないか、プロダクトとして好ましい見えかたを判断することができます。アプローチの判断基準をつくる重要な項目です。
大切なのは、プロダクト内の体験やキャンペーンイベント、カスタマーサポートにおいても、ブランドらしい態度に一貫性があるとユーザーから認識されることです。入店時の挨拶では「こんにちは」を用いているスターバックスで、「いらっしゃいませ」と挨拶されるだけで、居心地の良い空間やパートナー(スタッフ)との親しみなどに違和感を覚えるかもしれません。
このようなパーソナリティの浸透は、接客や店舗の同質性に限らず、サイト内のコンテンツづくりや製品広告ビジュアルのトーンマナー、メッセージの言葉選びに至るまで手を抜くことはできません。首尾一貫した性格や性質のコントロールが、競合他社との差を生み、多くのユーザーの信頼を築いているのだと思います。
10.ブランドイメージ
最後に、日頃デザイナーやマーケティング文脈で日常用語化しつつある「ブランドイメージ」についてです。イメージという言葉そのものは、「特定のユーザーやファンが、プロダクトを連想するときに意識してほしいキーワード、タグづけ」と言い換えられるでしょう。別の言いかたをすれば、ユーザーの記憶の中にある、サービスを連想するためのイメージワードのポジショニングを検討する行為と言えます。(例:赤から想起するブランドはこれ、といったポジショニング)
記憶には、短時間しか記憶できない「短期記憶」と脳が重要な情報と判断した場合に長く保管される「長期記憶」の2種類があります。
プロダクトの認知理解を深めるための広告プロモーションでは、短期記憶を残すために日々バナーや動画などマーケティング活動を行っています。一方、ブランド戦略の観点では、「長期記憶」にフォーカスし、マーケティングやPR活動、ユーザーコミュニティイベントの企画、カスタマーサポートといったあらゆる接点で、ブランドを広げるための共通イメージを設定します。このように、ユーザーとコミュニケーションをとるための手段を検討し、中長期的な価値の構築を目指していくのです。
ブランドイメージを定義する際のまとめかたについては、何の手がかりもなくプロダクト名からどのようにユーザーに記憶してもらいたいか、イメージしてもらいたいかを、下記の3つに分けてまとめることをオススメします。
- プロダクトの体験をとおしてもっとも強く連想させたい「体験イメージ」
- プロダクトを象徴する独自のカテゴリードメイン「カテゴリーイメージ」
- プロダクトと聞いてイメージするものの周辺を指す「周辺イメージ」
小型カメラ「GoPro」を例に、3つのイメージを解説してみましょう。
GoProは、単に防水機能を備えた小型カメラではありません。「Be a Hero.」というスローガンからもわかるように、まだ見たことのない冒険に挑む勇敢なユーザーを理想的な顧客とし、通常のカメラでは撮ることのできない“エクストリーム”な体験を記録できることを特徴としています。そんなライフスタイルに合った唯一のカメラであることを、伝え広げたことで画期的なカメラとして注目されるようになりました。リリースされた2014年の企業時価総額は40億ドルを見込まれたとも言います。
現在では売上や時価総額も減少しましたが、独自のカテゴリーイメージ「アクションカメラ」のポジショニングは、当時多くのメディアで話題となりました。今でもGoProが高い知名度を保っているのはそのためでしょう。
また周辺イメージとして「ユニーク、卓越的、エクストリーム、ワクワク冒険したくなる」カメラとして、ユーザーからも認知されています。これらの情報から体験イメージを抽出すると、「いままでになかったあらゆる“エクストリーム”な体験を呼び起こす」カメラと位置づけられるのではないでしょうか。
ブランドイメージを決める際には、独自のカテゴリーを象徴するイメージと実際のユーザー体験から得られるイメージ、そしてプロダクト名を聞いて連想させたいイメージの3つに分類し設計すると、曖昧になりがちなイメージをはっきりさせることができるはずです。
以上、10点のブランドバリューと提供価値について解説してきました。これらの項目を網羅的に定義することでプロダクトのあるべき姿がおおむね明確になり、意思決定のブレやデザインアプローチの最適化につながると思います。
プロダクトマネージャーやマーケティング担当者とともに、ぜひデザイナー主導で、この概念設計に着手してみてはいかがでしょうか。