展示されたトップクリエイターの作画は「最高の教科書」
――実際にオンラインで展示会を行ってみていかがでしたか?
大津 実際は2020年の3月に額装も会場の準備もすべて整い、展示会開催の社内ポスターを掲出する前日に、開催を取りやめることを決めました。ここまで準備してきたものができなくなるとわかったときは愕然としましたね。
ですが、別のプロジェクトでお世話になっていた企業さんの技術を活用すればオンラインという形で展示会が開催できるのではないかと気づき、その年の夏ごろに、正式にオンラインでの開催へと切り替え、企画を進めることができました。オフラインでの開催中止から別の実施方法を考えなんとか形にできたことは、とても印象に残っています。
作品を飾った場所は社内のごく普通の会議室だったので、見栄えはどうなのかなど不安な面もありましたが、実際に作品を並べてみるとしっかり展示会っぽくなっていましたよね。
浅見 ネット上でみると画角もついているので寂しい印象があるかもしれませんが、実際に会場に入ると、大判の絵がたくさんあり展示会に来たようでした。会議室の四隅を回りながら作品を見るのが楽しかったですし、なによりほかのクリエイターの作品をみることができ、とても勉強になりました。
元サイズのデータは世に出されるものよりもはるかに高い解像度で描いているのですが、そのおおもとのデータを印刷し、さらに大判で見れる機会なんてそうそうない。また、今回展示されていた作品が、ネームバリューのあるトップクリエイターの作品ばかりだったのですが、同じ部署でもそういった先輩の絵を私たち若手が高解像度でじっくり観れることはほとんどありません。同職からすると、これ以上ない最高の教科書だったので、私もなめるように展示会のサイトをみていました。
鹿塩 業務スタッフの視点でお話すると、今回の取り組み以前は、クリエイターとの接点がそれほど大きくない側面もありました。クリ推のメンバーは、出版業界、デジタルコンテンツの部門、ゲーム開発など、バックグラウンドや得意分野が違うのですが、展示会開催に向けて細かい部分も話しながら準備を進めてきました。その過程で、メンバーの得意なことやクリエイターのこだわりなどを確認することができたので、より信頼関係を築けたのではないかと思います。
また、業務職のスタッフを中心としてこういった場づくりができるんだとわかったことはとても良かった。今回は急遽オンラインに方向転換するなど、かなり実験的な部分も大きかったですが、クリエイターはどんどん新しい絵を描いていくので、こういった社内向けに成果物を見てもらう場は毎年1回くらいのペースで作っていきたいですね。
浅見 今回の展示会にあたって自分のパソコンの中を見返していると、残念ながらボツになったタイトルもたくさんありました。タイトルがなくなると描いた絵が使われることはないので、何十枚描いても自分の職歴としてはゼロなんですよね。ですが、そういったもののも含めてjpgで書き出してみたら、100枚以上になっていたんです。自分でもこんなに描いていたのかと驚きました。
ほかのデザイナーさんだと携わった作品として具体的なゲームタイトルを挙げることができますが、私はまだ担当箇所が細かい場合も多くメインをはっていないため、自身の代名詞となる作品を挙げることが難しいんです。そうすると、私は5年間なにをやってきたんだろうと、自分でもわからなくなるときがあって……。とくにいまはアートディレクターの役割を担うこともあるのですが、その主な業務は、グラフィックの方向性を提示したりセクションを管理すること。そのため、作画自体しなくなってしまう時期もあります。“デザイナーなのに描かない”状況に不安を感じるときもありました。
ですがこの展示会をとおして、「5年間ちゃんとたくさんの絵を描いてきたんだな」、「もう少しいままでと違ったテイストの絵にも挑戦してみたい」といった自分の気持ちを整理することができた。今後もいっそう頑張っていこうと思います。
――皆さん、ありがとうございました!