D&Dで考えるDevOpsのチーム作り
1本目に紹介するのは、「Dungeons and DevOps: Adventures in Building Empathy」(ダンジョンとDevOps:共感を育む冒険)だ。講演者は、HashiCorpでSREを務めるリン・ダニエルズ氏。コロナ禍でリモートワークへの移行が進む中、物理的に離れたDevOpsチームメンバーと連係・協調しながら開発を進める難しさを痛感したダニエルズ氏。ここ数年ハマっているという「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下、D&D)に、より良いチーム作りのヒントを探った。
D&Dは、RPGの原点で世界初の対話型RPGゲームだ。必要なのは、鉛筆と紙、サイコロ。ゲーム進行役のダンジョンマスター(DM)がルールブックに沿ってシナリオを作成し、プレイヤーたちは剣士や魔法使いなど思い思いのキャラクターになって、パーティを組んでモンスター討伐やダンジョン攻略に挑む。ダニエルズ氏は、DMとプレイヤーが協力しながらひとつの冒険物語を作り上げていく様子は、まさにプロジェクトに取り組むDevOpsチームと同じと指摘する。そして、さまざまなグループでプレイする中で、冒険やプロジェクトを成功に導くには、互いを尊重して思いやり、必要なときに手を差し伸べる「共感力」の心であることに気付かされたという。
たとえば、プレイヤー/DevOpsチームメンバーがパーティ/チームでプレイするときは、互いに相手を理解しようと努力し、認め合う関係を目指す、つまりは共感力を高めることが大切とダニエルズ氏は言う。これは、新規メンバーが自分のパーティに参加するときも同様だ。「まずは何度か一緒にプレイしてみること。そして、互いがどんなプレイスタイルで、どんな状況でどんな判断をし、どのような行動をとるかを確認する。それが分かれば、互いに心地よいコミュニケーションの取り方やサポートの仕方も見えてくるはずだ」(ダニエルズ氏)
DM/DevOpsチームリーダーも、メンバーに対する共感力が大切だ。目指すは、メンバーそれぞれが得意なスキルを発揮して互いを支え、チームのカルチャーにフィットしたパーティ/チーム編成。スキル面も、何かに特化するというよりも偏りなく全体のバランスがとれている方が、どんなインシデントにも対応できる。ダニエルズ氏は、「文化はときに人を排除するので、カルチャーフィットだけを指標にするのは危険」と前置きしつつ、足並みをある程度揃えることも必要と言及。「倫理観など根本的な意見の相違ではなく、エンジニアリングのアプローチがメンバーごとに少しずつ違うといったものであれば、たとえば何かひとつのやり方を何回か試して、うまくいかなければ別のアプローチをトライするといった具合に、探りながら擦り合わせていくといい」とアドバイスする。
その上で、DM/DevOpsチームリーダーが意識すべきは、メンバーが冒険を楽しめる進行と目標達成の支援を心がける“共感力”だ。たとえばゲームやプロジェクトの進行では、無理な目標を立てない。「たとえばモンスターが絶え間なく襲ってきて休憩する時間すら与えられないシナリオでは、みんな疲弊して冒険を楽しめない。ゲームであれば、パーティが全滅しても魔法や教会で復活させることができるが、現実はそうはいかない」。万全の体制で挑めるよう、メンバーの状況に目を配る余裕がほしいとダニエルズ氏は述べる。目標達成の支援についても、同様だ。メンバーのスキルセットや目標が何かを観察とヒアリングで整理し、体調万全で目標達成に取り組めるよう環境を整備、サポートしていくのが理想形だ。
ここまでD&Dと現実世界でパーティやチームをうまく回すための共通点を挙げてきた。が、ひとつだけゲームと現実世界で異なる点がある。それは、「現実世界にはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)など存在しない」ことだ。
「私たちは自分の人生の主人公で、自分以外はモブキャラやNPCと思い込むことがある。でも、実際は違う。相手も自分の人生の主人公だ。ゲームではNPCを傷つけても大きな問題はないが、現実では相手も自分と同じ人間だ」。ダニエルズ氏はそう強調し、だからこそ大切なのが共感力と述べる。共感力をもってインクルーシブな関係性を築くことが、最終的にはプロジェクト成功に結びつくとダニエルズ氏はまとめた。
