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【デブサミ2021夏】セッションレポート

受託で楽しい開発を突き詰める──「顧客と共に作る」を実現する方法とは?【デブサミ2021夏】

【C-4】受託で「楽しい開発」を突き詰めて価値を再定義してみた

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顧客とつくる「楽しい」開発ができるまで

 内製化支援サービス立ち上げまでの流れも説明された。まず、リーンキャンバスやチラシを繰り返し作り、サービスコンセプトを決めた。社内のさまざまな事業部にヒアリングしてフィードバックをもらい、ブラッシュアップを行ったという。

使ったツール・フレームワーク類
リーンキャンバスやチラシ作成でサービスコンセプトを決める

 ヒアリングやフィードバックをもらう活動は、社内の誰もがアクセスして知ることができるように、Slackのチャンネルなどを活用してオープンに議論を進めた。また、他部門のミッションとなるキーワードを導入にも使うことを意識しながら展開していった。そのヒアリングや壁打ちから、「クライアントが思っていること」が少しずつわかってきた。大きくは以下の3つである。

  • やりたいことや進め方がわからない
  • 技術がわかる人がいない・評価できない
  • やってくれることのイメージがわからない

 「つまり、お互いもっと近い距離で仕事をしたいと思っている関係だったんですね。それができるかどうかは担当者次第だということも見えてきました」

 この3カ月の活動は、ホワイトボードの軌跡と痕跡として残っている。また、ここまでの流れは、ブログでも紹介されているので、もっと詳しく知りたい人はぜひ参照していただきたい。

活動の痕跡
サービス立ち上げまでの痕跡

 そして、このサービス価値の核心になるものをどのように考えていったのか。阿部氏は、先ほど挙げた「クライアントが思っていること」を本セッションで一番話したかったと語り、掘り下げていった。

 まず、「やりたいことや進め方がわからない」。これはVUCAというキーワードに代表されるように、中長期的な予測が非常に困難であり、正解は一つではない状況であることが大きな要因だ。このような状況では、OODAループのような探索的なやり方で、スピード感をもって進めることが望ましい。

 だが、その実現に関わる技術について「わかる人がいない」という状況であることが多い。

 「今やっていることがわからない」「何が最適なのかわからない」「仕事の違いがわからない」「採用評価の基準がない」など、さまざまな原因から技術がわかる人はいない、評価できないという状況になっていると、阿部氏は分析している。

 「特に仕事の違いと採用評価の基準については、かなり深刻だと考えています。これが、エンジニアがユーザー企業を避けている理由の一つでもあるんじゃないかと。結論として、採用したいけどできない。内製したくても進めることができないという状況ですね」

 そこで自走支援に期待しているものの、「どこまでできればいいかがわからない」「何をお願いすればいいか わからない」という状況なのである。お互いもっと踏み込んでいきたいと思っているが、その間にあるさまざまなギャップを認識して言語化し、埋めていけるかどうかは担当者次第というわけだ。

 クライアントに対し、もっと価値を出していけると思っているのに、それを言われない、やらないままでは嫌だと考えた阿部氏らは、改めてどういう関係でいたいのかを整理した。それが以下である。

どういう関係でいたいのか
クライアントとの「楽しい」関係

 「会社の垣根を越えて目標を共有しており、それぞれがリーダーシップを発揮して、お互いを信頼して仕事をしている。その結果、事業が成長する姿を、我々が関わる事案により多く実現したい。それは、きっと楽しいだろうなと思いました」

 その内発的動機付けの要素は、自主性・成長・目的であると考えた阿部氏は、その裏付けのために自社の事例を読み返してみた。公開されているということは、クライアントからも一定の評価があると考え、その中に楽しさの要素があると仮説を立てたのである。

 改めて事例を読んでみると、技術だけではなく、一緒に作る姿勢などが評価されていたことが見えてきた。

自社の事例を読む
クライアントから評価されている事例を読む

 「技術の面でも文化の面でも、非常にクラスメソッドらしくできた事例だったのだろう」と阿部氏は振り返る。その「クラスメソッドらしさ」を分解すると、「リーダーシップ」「プロフェッショナル」「顧客視点」の3つが色濃く出ていたという。

 そこでクライアントと楽しく仕事をするために、技術サービスの届け方を変えることを決意。よりクライアントが期待する形で届けるためにボトルネックを学び、技術が活きるプランを立て、その上でワンチームを目指していこうと決めた。

 それを踏まえて「事業にクラメソをインストール」という社内向けのキャッチコピーも固まった。サービスの詳細がより描けてくるようになったと、阿部氏は強調する。

 「このサービスの価値は、私たちが大事にしている文化や経営理念、積み重ねてきた技術力。それらをお客さまに満足して活用してもらえるように実践していたことが価値だったのだと、改めて確信することができました」

最初の一歩を踏み出しやすい環境が後押しに

 サービスの立ち上げを勧めていく中では辛かったこともあったという。

 チームが発足して1週間後、意気揚々とリーンキャンパスを書いたものの、見直してみると気分が全然上がらない。今できることにとらわれてしまい、目指す先を小さくしてしまっていたからだと、阿部氏は分析している。

 「簡単に言うと、内容があまりにも小さくてありきたりだった。これ、俺らがやる意味とは?って、思ってしまったんですね」

リーンキャンパス(1回目)
リーンキャンパス(1回目)

 今度は気分が上がるように、今までの積み上げを分析したり、自分たちが考える理想や本当の価値を見つめたりしながら、リーンキャンバスを作り直すことにした。すると気分も上がってきて、未知の領域ではあるが「やれる」という気になった。それが他部門を含めた巻き込みの意欲にもつながっていく。

リーンキャンパス(2回目)
リーンキャンパス(2回目)

 これをやるために頑張っていこう。そう感じることができ、チャレンジする決断ができた理由は、大きく「経営方針・未来志向・フィードバック」の3つがあったと阿部氏は語る。

 「今日のご飯はしっかりスケールして稼ぐ。明日のご飯はやり方は確定しているけどもスケールしていない。明後日のご飯はまだやり方も育っていない事業ですね。今日のご飯がしっかりあるうちに明日のノウハウと明後日のご飯育てましょうという方針です」

 新しいことを始める際に失敗はつきもの。それを責めるよりそこから何を学べたか大事にする環境が重要だ。そして、さまざまな知見や学びが得られるようにフィードバック歓迎している文化が必要であると指摘した。

チャレンジする決断ができた理由
チャレンジする決断ができた理由

文化を作る、楽しい仕事

 とある打ち合わせで、危機感を持ちながら描いたホワイトボードをきっかけに、自分たちができることの価値を掘り下げて、内製化を達成させるサービスとして打ち出すまでにつなげた。壁にぶつかりながらも、3月23日にリリースするに至ったわけだが、阿部氏は、最後にこの活動を通じて得られたものについて、次のように語っている。

 「我々が提供できる価値と向き合う時間、クライアントとの新しい関係性を考えることができたこと、それを事業としてまとめて立ち上げるという面白い経験が得られました。そのサービスの展開を通じて、『文化を作る仕事なんですね』という胸熱な台詞をいただくこともできました」

 まとめとして、阿部氏は「スケールするビジネスモデルを作るためには、チームとやり方に投資し、一緒にやる人たちを増やす。そして、チームで学び続けること」だと語った。次の目標は「クライアントと一緒にこの取り組みの話をしたい」だそうである。

 最後に聴講者の参考にしてほしいと、内製化支援のステップをスライドで示し、セッションを結んだ。

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この記事の著者

馬場 美由紀(ババ ミユキ)

 エンジニアとテクノロジーが好きな編集・ライター。エンジニア向けキャリアサイト「Tech総研」「CodeIQ MAGAZINE」、Web技術者向けの情報メディア「HTML5 Experts.jp」などでライティング、コンテンツディレクション、イベント企画などを行う。HTML5 開発者コミュニティ「h...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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