よりシンプルな道具が必要
過去20年間でアジャイルは長足の進歩を遂げ、さまざまな手法が生まれた。そしてそれぞれの手法に対応するプロセスやフレームワークなどの道具も揃った。しかし博士は、アジャイルをソフトウェア開発以外の職種に応用するには、アジャイルのフレームワークがどれもソフトウエア製品の開発に特化したものとなっている上、非常に複雑になっていることを問題視する。アジャイルをより一般的に利用するには、よりシンプルな道具が必要だとも言う。
そこで博士は、2015年からの研究で導き出した4つの言葉を持ち出した。Collaborate(コラボレーション)、Deliver(デリバリー)、Reflect(内省)、Improve(改善)の4つだ。博士はこの4つを「アジャイルの心(The Heart of Agile)」と呼んでおり、基礎になるとしている。ここから、アジャイルの心を構成する4つの言葉一つ一つについて詳しく語り始めた。
まずCollaborate(コラボレーション)だ。チームが協力すればするほど、物事は上手く進む。チームの協力体制が悪化すると、事態も悪化する。明白なことだ。博士は、この重要なテーマにお金と注意を費やすべきと指摘し、だからこそこの言葉をアジャイルの心の1番目に置いたと語る。
協力の質を高めるには、信頼関係と文化、そして報酬が重要になるという。信頼関係がなければ協力体制が悪化することは想像しやすいだろう。文化についても、国ごとに、そして企業ごとに異なる文化があり、協力の形もそれぞれである。この点も分かりやすい。
一方で、協力関係を高めるために報酬が重要と言われると、戸惑う方もいるかもしれない。博士も、経営者は協力関係にお金をかけたがらないと嘆く。博士は、協力関係を高めた従業員にはより高い報酬を支払い、ほかの従業員にも協力関係を高めるように動機付けをすべきだと訴える。実際に博士が大企業の経営者と話をするときに、最初に切り出すのが報酬の話だともいう。そして、従業員を評価する項目の上位2つに協力関係が入っていなければ、従業員は誰も協力関係には注意を払わないと指摘し、協力関係を高めるために、評価基準の最重要項目に協力関係を設定する必要があると強調する。
細かく、何度もやり遂げて、軌道修正のための情報を得る
Deliver(デリバリー)は、大きな業務を長い時間をかけてやり遂げるという意味ではなく、小さな単位で何度もやり遂げることを指す。博士は、世界が常に変化し続けているから、常に世界に触れて、予想と違うことが起きるのを把握し続ける必要があると指摘し、世界に触れて学ぶために細かい単位で頻繁にやり遂げる(マイクロデリバリー)必要があるとしている。これは、初期のプロダクト構想や課題設定には間違いや現実とのずれがあり、それを洗い出して学ぶために、細かい単位で段階を踏んでやり遂げ続けるということだ。
そして博士は、細かく、何度もやり遂げてそれぞれの段階で収益を得ることよりも、やり遂げることによって得られる情報の方が重要だと指摘する。情報のためだけにかなりの金額を支払ってでも、細かくやり遂げる価値があるとも言う。現代のプロダクトマネジメント、特にソフトウェア分野においては、製品や取り組みの軌道を調整するための情報を得る目的で、世界に向けて実験的な製品を小出しにする傾向があることは皆さんご存知だろう。
