一度止まって考える
博士はReflect(内省)とImprove(改善)は一緒に扱われてしまうことが多いと言い、内省する段階で一度完全に「止まる」ことを強調したいと訴える。そして実際にはきちんと止まろうとしない人が多いため、「内省」と「改善」を分けたと説明する。
博士は内省の段階で、製品やプロジェクトの作業を止める必要があるとさえ言う。そして、チーム全員で集まり、話し合って、本当に望んでいることは何かを考えてみよう。感情を整理し、自分自身を省み、データを考察してみようと聴衆に促す。ただし、これはそれなりに大変な作業だとも付け加える。
内省が終わると、方向性が決まり、お互いを知ることができ、現状を把握できる。さらに、過去をしっかり把握でき、将来目指したいもののアイデアが掴める。ここで初めて、改善に手を付けられるのだ。
そしてほかの3つの過程と同じように、改善でも小さな改善を積み上げていくべきだと博士は語る。すでにうまくいっているものをベースに、小さな変化を積み上げていくという考え方だ。上手くいかなかったとしても、まだ進み過ぎたわけではないので、一度立ち止まり、今度は何を変えて試してみるか、新しいアイデアを考えれば良いともいう。
ここで博士は、「デルタ・デルタ・テクニック」という手法を持ち出す。「アジャイルの心」コミュニティーで、何かを改善したいときに中核的なテクニックになっているものだという。簡単にまとめると、自分たちが本当に望んでいるものをしっかりと見据え、現在どれくらいの段階にいるのかを把握し、ほんのわずか先を目指すというものだ。1から10のスケールで、4にいるとしたら、1、2、3、4のステップはすでにうまくいっている。これを基盤に、0.5だけ上を目指すと良いと博士はいう。十分に実現可能で、間違えていたとしても簡単に後戻りできるのが0.5だということだろう。
より良い職場環境を作るために
ここで博士は経営者と労働者の関係に話を移し、「X理論」と「Y理論」という2つの言葉を持ち出した。これらはダグラス・マクレガーという心理学者が1970年代に提唱したものだ。X理論は、労働者は根本的に怠け者で愚かであるという考えを基にしており、経営の仕事は、労働者に何をすべきかを指示して強制することだという理論だ。
一方「Y理論」は、労働者は実際には賢くてやる気があるという考えを基にしている。経営者は労働者の自主性を重んじるべきだという理論だ。博士は、頭脳労働で目指したいのは「強制モデル」の逆であり、「選択モデル」「許可モデル」が理想だと語る。X理論よりもY理論ということだ。
ここで会社を外から見ると、経営者が置かれている立場が厳しいものであることが分かる。博士は、例えばウォール街で株が取引されている大企業があると考えてみようと話を続ける。CEOも経営陣もウォール街の株主から激しい要求を受けている。これは「X理論」の世界だ。
一方で、下層に当たる労働者には、選択と許可のモデルを使うことが必要だ。創造的な仕事をするには、静かな空間とストレスの無い状態を作ることが大切だからだ。どんな企業においても、「X理論」の強制と支配を上から受けることは避けられない。しかし下層には「Y理論」の環境を作りたい。
そのためには中間層の誰かが、下の環境を上の圧力から守る傘、あるいは盾になる必要がある。ここで博士は、「良い上司」の話で良く聞くのは、上からのプレッシャーから守ってくれるという話だと指摘し、この上司たちこそが盾だと強調する。博士は聴衆に、創造的な仕事ができる静かな環境に恵まれているのであれば、見上げてみようと語りかける。きっと、傘になってくれている上司がいるはずだと。そして、感謝の言葉を伝えようと優しく呼びかけた。
博士は最後に「対話(Dialogue)」「寛容さ(Openness)」「人間性(Humanity)」という3つの心構えを挙げた。グループとして、コミュニティとして、リーダーやインストラクター含め、誰もがこの心構え「対話」「寛容さ」「人間性」を持ってほしいと語り、講演を締めくくった。
