クリエイターと企業のこれからの関係
ファンを増やす活動にシフトしているという点で、アドビ自身のクリエイティブ分野のビジネスは、常により良い顧客体験の提供を目指して改善を繰り返してきたと言えるでしょう。
私も最近知ってとても驚いたのですが、現在Adobe Creative Cloudのビジネスで定義している顧客接点は、何と40を超えているのです。少し前まで20程度だったことを考えると、いっそう細分化されています。ウェブサイトやメールはもちろん、トレーニングコンテンツ、トライアルのダウンロードページ、アプリからプッシュ通知に至るまでありとあらゆる顧客接点を定義しており、しかもそれが今後変動する可能性がある。こうなったのは、カスタマージャーニーと結びついているからにほかなりません。
お客さまの状況次第でどんどんニーズが変わるので、そのタイミングを確実に掴みたい。そのためには顧客接点を細かく見ていく必要があります。また、タイミングに応じてお客さまに見せるコンテンツも変わってきます。
たとえば同じ製品でも、初心者とエキスパートでは違うコンテンツが必要ですし、習熟度に応じてラーニングコンテンツも変わります。さらに言うと、購入前と購入後、Adobe Creative Cloud を1製品しか持っていないお客さまもいれば、すでに3製品持っているケースもいる。そう考えると、あらゆる状況を捉えて、最適なコンテンツを提案したくなるものです。そのために私たちがモニタリングしているのがKPIです。
図1で示したように、カスタマージャーニーをAwareness、Consideration、Purchase、Service、Loyalityの5つに分解するとします。その場合、Adobe Creative Cloud の持つ40の顧客接点それぞれで5段階のカスタマージャーニーに紐づけられたKPIを見ながら、製品ごとに設置した各Business Unit(BU)が達成に向けて活動していることになります。
アドビではサイクルは1週間単位。一連の活動を支えているのがクリエイティブです。たとえば、月曜日に出社して、クリックレートが悪いとわかったとしましょう。当日中に改善プランを決め、火曜日にはクリエイティブの変更プランをA/Bテストで検証し、GOサインが出たら、水木金で実行する。土日を挟んでデータを収集し、次の月曜日にはまたその答え合わせをする。このプロセスを回すには、マーケターとクリエイターとの連携が密であることが不可欠です。
デジタルチャネルの重要性が増す今、プロモーションキャンペーンに資金を一気に投入し、その結果が良くても悪くても、次のキャンペーンを実行するようなやりかたでは立ちいかないでしょう。企業活動そのものが変わりつつある以上、カスタマージャーニーの起点になるコンテンツを制作するクリエイターの責任は重大です。
正解はお客さまがくれる――。それが顧客体験の本質です。コンテンツとデータをセットに4Rを実践することで、初めてお客さまを中心に据えたコミュニケーションが可能になるのです。