自動化の軸は「生成と予測」 AI×クリエーティブ領域が広まってきた3つの理由
――AI×クリエーティブの領域が広まってきた理由や背景を、どのように考えていますか?
岸本 大きな要因は3つあると考えています。ひとつは技術面で、AIが高度化し、実用に耐えうるレベルになってきたことです。2012年ごろ、ディープラーニングによる大きな進歩があり、以後さまざまなビジネスの現場に投入されるようになりました。人間が普段使う言葉をAIで扱う「自然言語処理」の領域では、英語を用いた研究が先に発展してきました。それらの技術が徐々に日本語にも応用でき、現場でも活用できるレベルになってきたことを受け、電通では2017年にAIコピーライターAICOをローンチ。AIが実用化の域に達したことのひとつの表れでもあったように思います。
ふたつめは、メディア環境の変化です。昔の広告というと、テレビCMなどのマス広告で伝えたいメッセージを流して終わりでしたが、現在はSNSやウェブ広告、チャットボットなど、ブランドや企業との接点が急増。コンタクトポイントとともに制作物の数も増え、いっそう多様化しました。
マスメディアが大多数の人に一方的に情報を伝えていた時代から、1対1のメッセージを伝えるためのコンテンツを、多様なチャネルでつくる時代へと変化。そのため、さまざまなコンタクトポイントに適した素材が大量に求められるようになりました。そういったニーズに対応しなければならないことも、AIが浸透してきた一因だと考えています。
3つめの文脈は、働き方改革です。ふたつめに関連し、制作物が増加すれば、それにともない工数や勤務時間も増えることになります。その一方で、働き方をスマートにしたいという現場のニーズもある。コピーでいえば、アイディア出し100本ノックは新人にとって必要なステップでもありますが、もう少し効率よく、シンプルにすることもできるはず。AICOでは5秒で100個の案を出すことができるので、それらの案から優れたコピーを選ぶ目を養うというやりかたもあると思います。そういった背景も、AI×クリエーティブの領域が広まった理由ではないでしょうか。
――AI×クリエーティブ領域のトレンドはありますか?
岸本 AIに限らずこの領域の自動化では、生成と予測というふたつの軸がポイントで、生成はアイディアの発散と収束のフェーズでいえば発散に近いと思っています。クリエイターの知見や、そこから生み出された制作物をベースに、AIを用いる人が個人の癖で思いつかなかったアイディアや気付きを与えてくれる。それが生成系のAIの役割でありトレンドだと考えています。
対する予測はアイディアの収束だと思います。人間のクリエイターだと多様な打ち手の中から経験や勘などを頼りに絞るのがいままでの主な方法だったと思いますが、データ分析をもとにしたAIでより精度を高くすることで、効率的に顧客体験を向上させていく。それが現在の予測における特徴だと思います。実際には、生成と予測のふたつはセットになっていることも多々ありますね。
また近年はとくに、生成の部分でよりリッチな表現ができるようになってきたと感じています。
ここ3年くらいのうちにさまざまな領域で大きなブレイクスルーがありました。たとえば文章作成の面では、以前は人間がテンプレートをつくり、そこに言葉をはめていく、もしくは短文の生成が主流でした。しかし最近は、より自然かつ長めの文章もつくれるようになってきました。画像においても同様のブレイクスルーがあり、文章に合った画像をつくることも可能になりつつある。まだ実用に耐えうるレベルではないですがだいぶ進んできたようなので、数年以内に実践に導入されるのではないかと考えています。