キャリアを切り開くための理想の環境とは?
戦略3:困難な状況を数多く経験する
30代になると結婚などのライフイベントや体力の衰えに直面することになる。20代よりも自分のためだけに使える時間は限られてくる。(状況によるが)転職のハードルも高くなるだろう。
姉川氏は「U30のうちに困難な課題に直面し、解決する経験を積むことが、AI時代に左右されないスキルを構築し、今後のキャリア形成に大きく関わってきます。重要になるのがコンフォートゾーンを抜け出していくことです」と述べる。
実際に姉川氏のこれまでのキャリアも、コンフォートゾーンを抜け出すことで成長を繰り返してきた。最初は数千人規模の会社で、大規模業務用Webアプリケーション開発に携わっていた。入社から数年が過ぎると、仕事の要領がつかめてきてコンフォートゾーンに入った。そこで落ち着くのではなく、エンジニアとしてのスキルアップのために「もっとたくさん新規機能開発をしたい」と思うようになり、転職した。
転職先は教育系のSaaS開発で、当時は社員数100人程度のスタートアップ企業だった。社員が増えていくフェーズを経験し、スクラム開発で新機能開発のリードをするほどにもなった。再びコンフォートゾーンに入ると、「スキルの幅を広げたい(インフラ、アーキテクト、マネジメントなど)。30歳を前に、より困難な状況に身を置いて成長したい」と考え、現在のAI系スタートアップFastLabelへと転職した。
こうして姉川氏は転職を通じて新しいスキルを獲得し、エンジニアとしてステップアップしてきた。姉川氏は「困難な状況を数多く経験するということは、自分が描くキャリアに足りないものを身につけるとか、現在のコンフォートゾーンを抜け出すということだと考えています」と説明する。
とはいえ「こんなにうまくいくだろうか」と思うかもしれない。その点、姉川氏は「スタートアップがおすすめです」と強調する。確かにスタートアップであれば、否が応でも数多くの経験が積める。まだ社員が少ないため1人に割り当てられる役割は多く、ビジネスもシステムも発展途上なので試行錯誤を経験することになる。
実際スタートアップではエンジニアはどんな経験が積めるか、FastLabelを例に見てみよう。同社はまだ社員が30人程度で、開発要員も10人程度。ソフトウェアエンジニアであれば、フロントエンド、バックエンド、インフラに分かれているものの、多くが兼任なので関わる範囲が広い。言い換えればフルスタックエンジニアのようになる。
またリソースに制約があるなか、優先順位をつけ、タスクのスコープを調整するなど、難易度の高い意思決定が日々繰り返される。ビジネスの成長、組織、技術など課題は山積しているので、チャレンジの機会は豊富にある。仕事で関わる相手も幅広い。社内のAIエンジニアから社外の顧客まで、様々なステークホルダーとビジネスコミュニケーションする機会がある。こうしてスタートアップであれば、スキルを多種多様な方面に伸ばして行くことができて、抱える課題も多いため課題解決スキルも自然に伸びていく。
姉川氏は次のように話す。「エンジニアの仕事が今後AIで効率化されることにより、エンジニアが担当する仕事の幅が広がっていくと予想されています。エンジニアにもビジネス成果がシビアに求められていくでしょう。実際、FastLabelではお客様の成長にピンを止めたカルチャーがあり、ビジネス成果を達成できるエンジニアになれるよう日々頑張っています」
戦略4:海外に目を向ける
最後に少し毛色が変わる話題となるが、海外に目を向けるということ。円安や少子高齢化が進み日本の競争力が弱まるなか、日本でしか働くことができないエンジニアの価値は今後ますます低迷すると考えられる。
AI技術はじめ、テクノロジーをリードしているのはアメリカだ。そのため英語力を鍛え、最先端AI技術やテクノロジーをキャッチアップしていくことが重要になる。姉川氏は「将来食いっぱぐれないように、グローバルで働けるエンジニアになることが将来のキャリアに対するリスクヘッジにもつながります」と話す。
「とはいえ、自分は日本が大好きなので、日本をもっと盛り上げていきたいなと思っています。みなさん一緒に頑張りましょう」と目の前の聴衆に呼びかけて講演を締めくくった。