世界4位のITエンジニア大国である日本の課題と成長機会
ファーストリテイリングは、ユニクロやジーユーをはじめとするブランドを世界展開し、海外売上が国内を上回りつつある。「北米やヨーロッパ市場が急成長しており、グローバル展開が重要な局面を迎えています」と村田氏は説明する。

村田氏はバックエンドエンジニアとして入社し、Eコマースの仕組みをゼロから作り直すプロジェクトに携わった。チームを育てる中で組織づくりに関心が移り、エンジニアリングマネージャーへとキャリアをシフト。現在は、日本発のグローバルエンジニアリングチームを作ることを使命とし、その実現に向けた発信を続けている。

同社は「情報製造小売業」というビジョンを掲げ、データを活用した事業変革を進めている。村田氏は「情報を活用し、理想の商売を実現することが私たちの目指す姿です」と語る。たとえば、ユニクロのアプリやECサイト、SNSを通じて顧客と直接つながり、ニーズを反映した商品開発を目指しているのだ。また、必要な商品を適切なタイミングで生産・流通・販売することで、無駄を省き、環境にも配慮したビジネスモデルを確立する。村田氏は「正しい情報をもとに全社員が連動できる仕組みを作ることが、当社の強みにつながります」と強調した。
続いて村田氏は、講演のメインテーマであるソフトウェアエンジニアのグローバルキャリアの形成について話を進めた。
ヒューマンリソシアの調査「データで見る世界のITエンジニアレポートvol.9、10」によると、日本のITエンジニア人口は世界第4位であり、アメリカ、インド、中国に次ぐ規模を誇る。しかしながら、世界の主要なIT大国に肩を並べるほどの人材を抱えている一方で、エンジニアの給与水準は欧米と比べて低いものの、「まだまだ伸びしろがある」と評価する。
また、日本発のオープンソースソフトウェアには、TRONプロジェクトやRuby、Fluentdなど、世界的に影響力を持つものも多い。村田氏は、こうした点から「日本のソフトウェア業界には高いポテンシャルがある」と評価し、技術力の面では国際的な強みを十分に備えていると述べた。
一方で、技術力以外の側面も含む総合的なデジタル競争力は必ずしも高くない。IMD(国際経営開発研究所)が公表した「2023年世界デジタル競争力ランキング」では、日本は64カ国中32位と中位にとどまり、年々順位が下がっている状況にあるという。ビジネスの俊敏性や規制の枠組みが競争力の足かせとなっており、デジタルスキルを持つ経営層の不足も影響している。村田氏は「デジタルスキルと国際経験を持ったシニアマネジメントがいないと適切な経営判断ができない」とし、デジタル分野でのグローバル視点の必要性を強調した。
このような人材不足の状況は若手エンジニアにとってチャンスでもあると村田氏は語る。「新しい技術や取り組みに積極的な若手エンジニアが国際経験を持てば、日本のトップビジネスを牽引する貴重な人材になれる」と述べた。
ファーストリテイリングでは世界で挑戦したいエンジニアを募集しています
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日本企業で働きながらグローバルなビジネスに挑戦する方法
村田氏は、国際感覚を持つソフトウェアエンジニアのキャリア形成について、「グローバルにキャリアを築くには、さまざまな方法がある」と述べ、世界市場と国内市場を縦軸、本部が海外か、本部が国内かを横軸とする4つの象限で整理した。

実際に海外に出て現地の企業で働く道もあれば、国内にいながら外資系企業の日本法人で働く選択肢もある。また、日本発のグローバル企業に所属して活躍するという道もある。
村田氏は今回の講演に向け、参加者が理想とするキャリアについて調査したところ、日本企業で働きたいと考える人が多いことがわかったという。ただ、その多くは国内市場にとどまるのではなく、グローバルなビジネスに関わりたいと考える人が多かった。

村田氏は「いきなり海外に行ったり、外資系企業に転職したりするのはハードルが高いと感じる一方で、日本発のグローバル企業なら挑戦しやすいと考える人が多いのではないか」と分析する。
ファーストリテイリングは、日本発のグローバル企業というポジションにある。村田氏は同社のような企業でのキャリア形成には3つの特徴があると述べた。
1つ目は、主要なプロジェクトや意思決定に関われる点だ。日本発のグローバル企業は本部が国内にあるため、戦略的な決定が日本で行われることが多い。村田氏は「グローバルに展開する企業の中枢で、影響力のあるプロジェクトや意思決定に関わる機会を得られるのは大きな強み」と語る。
2つ目は、仕事を通じて効率よく語学を習得できる点だ。グローバルビジネスにおいて英語の必要性を感じる人は多いが、日本発の企業であればプロジェクトの中で自然と英語を学ぶ機会がある。「日本発のグローバル企業では、プロジェクトで英語が必要になるため、仕事をしながら学ぶ環境が整っている。さらに、社内には日本語がわかるメンバーも多く、フォローアップ体制も十分にある」と村田氏は説明する。ファーストリテイリングには英語がほとんど話せなかったエンジニアが、プロジェクトを通じて上達していく例が数多くある。
3つ目は、日本の文化的特性を活かせる点だ。例えば、ソフトウェア開発の文脈においても、規律を守ることを重視する日本の文化的傾向が武器になる。村田氏は「コーディング規約の遵守や、本番作業の手順の徹底、テストの実施など、細部にわたる正確性が求められる場面で強みを発揮できる」と述べた。また日本の文化には「全体」や「調和」に対する意識が強いという特徴もある。要求仕様が曖昧な場合でも、単に受け付けないのではなく、意図をくみ取って適切な提案を行うことが得意だという。さらに、近年のソフトウェア開発では、物事を部分に分解して理解するという要素還元主義だけでは解決できない、複雑なシステムの設計が求められる場面が増えている。村田氏は「全体を見渡し、調和を図る姿勢は、こうした複雑なシステムを扱う上で大きな強みになる」と強調した。
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デジタルとビジネスをつなぐ—エンジニア育成とリーダーシップ開発
ファーストリテイリングがどのようにグローバルチームを構築しているのか。村田氏は具体的な取り組みを紹介した。
まず示したのが「グローバルワン全員経営」という考えだ。村田氏は「私たちは全員経営の考え方を重視し、世界で最も良い方法を全員で実行することを目指している」と語る。この考え方はシステム開発にも適用され、各国ごとに異なるシステムではなく、1つのグローバルパッケージを構築し、世界に展開するアプローチを採用している。

各国の文化や法制度を考慮しながら要件を統一するのは容易ではない。その過程を通じてエンジニアはグローバルなビジネス感覚を養う機会を得られるという。言語の壁も課題となるが、バイリンガル人材による日本語と英語の橋渡しを活かして円滑なコミュニケーションを実現している。さらに、生成AIを活用し多言語対応したコミュニケーションツールを積極的に導入している。異なる言語を話すメンバーがそれぞれの得意な言語で会話をしても、言語の壁を超えて議事録を作成し、ナレッジを蓄積できる環境を整えている。
また、文書は単なる翻訳ではなく、日本語と英語を併記する形式を採用。各言語で交わされる業務用語の理解を深め、確かなコミュニケーションにつなげている。さらに、世界の最先端企業との交流を通じて、技術や経営の視点を学ぶ機会を増やし、国際感覚を持った先端人材の育成にも力を入れている。
グローバルビジネスにおいては、複数の文化を統合し、市場適応力を高めたチームが求められる。村田氏は「日本の文化、各国の文化、エンジニアリング文化、小売業の文化。それぞれの良い部分を融合し、最適な形を模索することが重要だ」と述べる。その一環として、グローバル本社の機能と人材を分散させ、東京を拠点としていた人材を世界各地に派遣し、次世代のリーダー候補に国際感覚を身につけてもらう取り組みもしている。さらに、「Global is local, Local is global(グローバルはローカル、ローカルはグローバル)」の考え方に基づき、ブランドや企業文化をグローバルに発信しつつ、各地域の特性を取り入れ、それを再びグローバルに展開することでイノベーションを創出している。
技術人材の育成にも注力し、システム設計の質を向上させるため「アーキテクチャレビュー」を推進。ECシステム、店舗システム、物流、生産管理など領域横断的に全体感を持ってアーキテクトを関与させ、事業ドメインの知識を深め、最適な技術選定につなげている。
ファーストリテイリングがエンジニアの育成にこだわる理由は、「業務=システム」という考え方を重視しているためだ。村田氏によると、創業者の柳井正氏は1993年にシステム開発の原理原則をまとめ、「システム担当者は現場を深く理解する」「単純明快なシステムを構築する」「自社やコンピュータ業界の未来と矛盾しない開発を行う」という指針を示した。この考え方は2025年の現在も変わらず、良いシステムを作ることが良いビジネスにつながるという信念に基づいている。
そのため、業務部門のデジタルリテラシー向上に加え、先端技術を持つエンジニアの採用と育成を強化している。技術に特化したエンジニアだけでなく、コミュニケーション力やプロジェクトマネジメント力、業務理解のスキルを備えた人材の育成にも力を入れ、より強固な組織づくりを目指している。
さらに、エンジニアから経営幹部候補を選抜・育成し、国際感覚を持ったデジタル人材へと成長させることも目標としている。最後に村田氏は「会社の未来を引っ張っていく、デジタルとビジネスの両方に精通したリーダーを育成しています」と宣言し、一緒に働く仲間を積極的に募集していることをアピールした。
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