DFDの歴史と現状
データフローダイアグラム(DFD)は、1970年代のシステム分析・設計手法とともに広まったモデリング手法です。長い間、システムエンジニアやビジネスアナリストの間で愛用され、複雑なシステムを視覚的に整理し、理解するための重要なツールとされてきました。しかし、時代の流れとともに、新たな分析手法、設計手法が提唱され、多くの人々がDFDを「過去の遺物」としてみなしています。

実際に、筆者の周囲において、DFDという単語に対する反応は「知らない、聞いたこともない」「名前だけは知っている」「昔、使ったことがある」の3つのいずれかであることが大半でした。残念ながら、「いまも頻繁に使用している」という声は少数派でした。
「DFDのよいところ」を知っていて、現在も度々活用している筆者からすると、非常に残念でもったいない状況です。「最近の難しい手法を使用しなくても、シンプルに構造を表現できるツールがあるじゃないか」「DFDをしっかり描いておけば、そんなところの認識齟齬でつまずくことはなかったじゃないか」「最近はやりのデータ基盤、そのデータの流れって、DFDで描いたらスッキリまとまるじゃないか」。DFDをこのまま埋もれさせてしまうのは惜しい、そんな思いが今回この本を執筆するきっかけとなっています。
なぜ「名前だけは知っていた」?
ところで「名前だけは知っている」人たちは、なぜDFDの名前を知っていたのでしょうか。その多くは「情報処理技術者試験で出題されたから」という理由でした。システムインテグレータなど、顧客企業向けにシステムを受託開発する企業に所属する人や、これからITエンジニアという仕事を目指す人は情報技術の基本的な知識を習得するために、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の「基本情報技術者試験」を受験するケースが多くあります。
筆者自身も学生時代に、基本情報処理技術者試験の前身である「第二種情報処理技術者試験」を受験して合格したことが、ITエンジニアとしてのキャリアをスタートするきっかけとなっています。
また、IPAはシステムを利用する側として、どのようなシステムを必要としているかの整理、つまり「要件定義」を行うにあたって、どのようなドキュメントを作成するべきかについても提唱しています。その中にもDFDはリストアップされていますので、実際にDFDを描いたり見たりしたことがないとしても、「ITエンジニアではないが、システム開発の発注にあたり、要件を整理していた人」も「名前だけは知っていた」中に含まれる可能性があります。