“自己責任時代”を生き抜く3つの基礎能力
能力を伸ばすプロセスについて語った後、曽根氏は本題である「仕事の中で成長する」というテーマに話を進めた。曽根氏が若手だった頃には、未経験者であっても企業が人材を育てる文化が存在していた。その時代の教育スタイルは、情報のインプットを徹底的に行い、大量の業務を通じて自然と知識や経験を積ませるというものだったと回顧する。
朝から晩まで膨大な仕事をこなすなかで自然と知識が身につき、蓄積された経験と知識が掛け合わさることで「知恵」が生まれ、結果として能力が形成されていく。そうした成長のサイクルを回すため、「とにかく量をこなしてガンガン働く時代だった」と曽根氏は話す。
一方、現代のIT業界は「できる人には仕事と給料を与える。学ぶかどうかは自己責任」という“自己責任時代”へと移行している。企業が人材育成を担う時代が終焉を迎えつつある中、ただ仕事をしているだけでは自然に成長するのが難しくなり、主体的にスキルを獲得していく必要性が高まってきたのだ。
こうした時代において曽根氏は、優先的に身につけるべき基礎能力として「計画実行力」「言語化力」「問題解決能力」の3つを挙げる。一見するとソフトウェアエンジニアリングとは直接関係がないようにも思えるが、これらはまさにエンジニアリングという営みの本質に深く関わるスキルだという。
この主張を補強するために曽根氏は、庄司嘉織氏の発表資料を引き合いに出し、エンジニアのキャリア階層について言及する。ジュニアエンジニアの主な職務は実装である一方、シニアエンジニアは要件や要求を解釈し、それを実装に落とし込む役割が求められる。ここまではある程度“正解”が見えるが、スタッフやプリンシパルといった上位職になると、ゴールが明確でない問題に対処し、他者には解決できなかった課題に挑むことが期待されるようになる。

ここで曽根氏は改めて、「顧客の課題を解決し、フィードバックと対価を得る」ことこそが、エンジニアという仕事の本質であると強調する。そして、その課題解決に不可欠な基礎能力が「計画実行力」「言語化力」「問題解決能力」の3つなのだ。
ファイルの設定や仕様書通りの実装といった“労力”がAIによって代替されつつある現在においても、技術を活用して課題を解決するという“能力”は、人間にしか担えない本質的な価値であり続けるというわけだ。
曽根氏はさらに、これらの3つの能力を鍛えるための方法として「内省とフィードバックサイクル」を紹介する。内省の手法としては、「コルブの経験学習モデル」を用いるのが効果的だという。このモデルは、以下の4つのステップから構成されている。
- 具体的経験:あまり経験のない領域など、自分の能力から少しだけ背伸びしたタスクに取り組む
- 内省的観察:具体的経験を多角的に省察し、新たな発見と学びを得る
- 抽象的概念化:複数の事例から共通点を見つけ出す抽象化と、その共通点を1つの言葉で括る概念化をセットで行う
- 積極的実践:抽象的概念化で導き出した知識・ノウハウを実践する
曽根氏は、このフィードバックサイクルを実践する手段として「日報や週報」の活用を強く推奨する。日報・週報を書く際に見積もりと実績を照らし合わせれば、計画実行力を鍛えることができる。また、うまくいかなかった要因を自分なりに言語化する過程で、言語化力の向上にもつながるのだという。

曽根氏は、「ブログ執筆や登壇などは言語化力を高める上で有効だが、恥ずかしさや勇気が必要。一方で、自分しか見ない日報や週報であれば、本音を赤裸々に書きやすい」とその利点を述べる。気軽に取り組める手段として、日報・週報はまさにベストなのだ。