適切な問題設定&ブレークダウンプロセスが成長に寄与
問題解決能力の向上には、まず「適切な問題設定」が欠かせない。これについて曽根氏は、元任天堂社長・岩田聡氏のインタビューを引用し、「問題を理解し、計画を立てれば大丈夫」という考え方を紹介する。そして「問題を理解する」とは、「未知なもの」「与えられているもの」「上限となる制約」を整理することだと語る。
この「問題を理解する」という考え方は、実務の中で「要望」「要求」「要件」「仕様」といった形に段階的に落とし込むプロセスとして応用できる。
たとえば新しいサービスを作る際、最初に出てくるのは「こんなものが欲しい」「こういうことができたらいいな」といった要望だ。これを実現するために必要な条件が要求となり、さらにそれをシステム上どう表現するかが要件になる。そして、実際の画面構成や機能の仕様など、技術的にどう実装するかを決めるのが仕様である。
ECサイトの開発を例に取ると、
- 要望(会員制ECサイトを運営したい、商品をたくさん売りたい…など)
- 要求(ユーザーが会員登録でき、商品注文できることなど)
- 要件(会員登録機能のデータ保存方法やマイページの表示内容など)
- 仕様(SSO対応の会員登録、パスワードの桁数など)
といった形に落とし込むことができる。実際の開発においては、予算やセキュリティなどの制約や前提条件も勘案していくことになるが、このように曖昧な希望から出発し、段階的に具体化・構造化していくことで、解決すべき「問題」が明確になり、適切な技術的アプローチが見えてくるわけだ。
さらに、仕事と作業の本質的な違いについても、曽根氏は明確に線引きをする。仕事とは、課題を整理し、それをタスクに分解する「設計」のプロセスであり、単なる手続き的な作業とは異なる高度な思考が求められる。

この「設計」を進めるうえで重要なのが、5W1Hの整理だ。誰が(Who)、いつ(When)、どこで(Where)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)という要素を明確にすることで、タスクは初めて他者と共有可能な状態になる。曽根氏は、「他人に依頼した作業がうまくいかないとき、その多くは5W1Hが言語化されていないことに起因している。これを意識するだけでも仕事の精度は格段に上がる」と語る。
また、多くの問題の根本原因は、タスクの終了条件が曖昧であることにあると指摘する。完了の定義や、場合によっては中止の基準(たとえば時間切れなど)までを事前に明示しておくことで、作業の枠組みが明確になり、結果としてプロジェクト全体の進行がスムーズになり、成果物の質も向上するという。
なお、終了条件を設定する際には、タスクが大きすぎないかどうかにも注意が必要だ。たとえば「アウトラインを作成する」という一見シンプルなチケットでも、粒度が大きすぎれば停滞の原因になりかねない。そのような場合は、タイトルを先に決める、作業時間に合わせて区切る、話す内容をリストアップするなど、より細かな単位へと分解する工夫が求められる。
「ともかくも、解決したい問題にフォーカスして発想のスケールを小さくすることで、適切な問題設定のサイズになる」と語る曽根氏。滞りなく業務を進めるためには、自分やチームの得意分野、あるいは対象となる課題に応じて、無理のないサイズで設計を行うべきだと強調する。
そのために、たとえば「1時間で終わると思っていた作業が終わらなかった」といった結果が得られたのであれば、「なぜ終わらなかったのか」「次はどうすればいいか」といった振り返りを行い、次回の改善へとつなげることが重要だと訴えた。

講演の締めくくりに曽根氏は、「この取り組みの流れは、計画・実行・確認・改善のPDCAサイクルそのものであり、毎日続けることで自然と問題解決能力や見積もりの精度が高まっていく」と、その効果を改めて強調した。まずは目の前の小さな課題に取り組み、毎日ひとつでも「知らないこと」を見つけて、自分が「無知の知」の段階に立っていることを自覚する。それこそが、成長の第一歩になると語る。
ソフトウェアエンジニアは、コードを書かなければリリースはできず、顧客の話を聞かなければ仕事が成立しない。「今日の話を聞いて何か感じたことがあったなら、まずは日報を書いてみてほしい」。小さな実践の積み重ねこそが、大きな成長につながる──そんなメッセージで、セッションを結んだ。