委員会は「強制的な遊び場」、個人の知的好奇心とクリエイティビティを引き出す仕組み
スマートバンクの事例から我々が学ぶべき本質的な教訓は、組織のスケールアップに伴い、個人の「善意」や「暗黙知」に依存したマネジメントはいずれ限界を迎えるという事実だ。視座が高く優秀な「スーパーマン」が社内にいれば、彼らに横断的な課題を任せることで一時的には問題が解決するように見えるかもしれない。しかし、それは組織の構造的な脆弱性を覆い隠しているに過ぎない。
三谷氏が提唱する「委員会」というアプローチの真髄は、課題解決の責任を分散させると同時に、それを「強制的な遊び場」として機能させた点にある。メンバーに対して単にタスクを割り振るのではなく、「抽象度の高い課題」と「予算を含む強力な権限」をセットで委譲することで、個人の知的好奇心とクリエイティビティを最大限に引き出したのだ。人は、詳細な手順を指示された作業よりも、自ら考え、決断し、実行したことにこそ強い責任感を持つ。
また、年次や役職に関わらず若手を委員長に抜擢したことは、次世代のリーダー育成という観点でも極めて有効な示唆に富んでいる。シニアエンジニアの意見を取りまとめ、他チームとの高度な調整を伴う意思決定を経験させることは、日常の開発業務では得られない貴重な成長機会となる。エンジニア組織におけるマネジメント層は、自組織において横断的な課題が放置されていないか、特定の優秀な人材に負荷が集中していないかを定期的に点検し、現場が主体的に解決策を模索できるような「器」を意図的に設計することが求められている。
脱・「スーパーマンに頼る組織」へ、分権型組織の本質的な考え方
組織規模の拡大に伴う「壁」は、決して避けては通れない通過儀礼である。しかし、スマートバンクの事例が示すように、横串の課題に向き合うための戦略的な仕組みを構築することで、その壁は組織を一段上のステージへと押し上げる跳躍台になり得る。分権型組織とは、マネジメント層が責任を放棄する丸投げの仕組みではない。現場のエンジニアが技術的な挑戦を楽しみながら、事業成長と自己成長を両立できる「権限委譲された遊び場」を丁寧に整備していくプロセスそのものである。
今後、ビジネス環境の劇的な変化に伴い、企業が抱える課題はより複雑化していくだろう。本セッションでは、自組織の足元を見つめ直し、一部のスーパーマンに頼る危ういバランスから抜け出すための第一歩を踏み出すためのヒントを紹介した。権限を渡し、背中を押し、失敗を許容する環境を整えること。それこそが次なる成長を導くリーダーの重要な責務だ。
