「エンジニア×法務」——プライバシーポリシー改定という具体的な越境
この問いへの答えを探すため、黒川氏とチームメイトのルドルフ・ヨガ・フタマ氏は「エンジニア×何か」という組み合わせで自分たちの発揮価値を拡張できる領域を洗い出した。スクラムチーム内のデータ分析・マーケティング、チーム外の品質保証・知財・法務の4テーマを特定し、2人で2テーマずつ担当することにした。
ルドルフ氏が担当した法務・知財のパートでは、2つの課題が明確になっていた。法務部にとってはアプリ内のデータ取得構造がブラックボックスで、利用規約やプライバシーポリシーの策定に技術的な根拠を持ち込めないこと。エンジニア側は構造は理解しているが関連法規の知識が浅いことだ。
法務部とのコミュニケーションを重ねていくと、付箋を貼るように次々と問題が可視化されていった。中でも「必要な権限や取得データの構造がわかりにくい」という点が最大の課題として浮かび上がり、エンジニアが取得データのリストを作成して法務部が理解できる形に整理する作業に取り組んだ。
そのプロセスでユーザーに対して外部送信の経路(フロー)を明示すべきだという気づきも生まれ、アプリ内なのか外部サービスなのかを分類して整理し直した。改定後のプライバシーポリシーでは、Google Analyticsへのリンクを飛ばすだけだった記述が、外部送信の規律についてユーザーにわかりやすい形で細かく書かれるようになった。エンジニアが直接関与することで、取得データの実態に即した策定が実現したのだ。
活動の中で露わになった課題も率直に共有された。データリストを作成する段階でどこまで記載すべきかの判断ができず、開発側で関連法規を十分に認識できていなかったことで手戻りが発生した。「もっと早く気づいていれば手戻りを少なく進められた」という反省は、次の越境活動に向けた実践知として残っている。
黒川氏自身が担当したのはデータ分析と品質保証の2テーマだ。講演ではデータ分析への取り組みを中心に話した。この活動の動機として黒川氏が挙げたのは「視座を高く持ってプロジェクトを見られるようになりたい」という気持ちと、「エンジニアだけでなくプロダクトマネージャーのような活躍の道も開けるんじゃないか」という期待だった。
2025年度のHealth Scanチームには、機器販売に合わせた機能追加や改善点の収集といったこれまでの活動に加えて、「事業拡大に向けたグロース施策」という新しい目標が加わった。しかし「ずっとエンジニアをやってきた自分には、グロース施策と言われても難しい」というのが正直なところだった。
